幅広い地域でデジタルエコノミー職が求められるようになることの意味
企業がリモートワークを受け入れるようになり、人々のデジタルエコノミー職への関心度も高まっているという二重のトレンドがもたらす最大の社会的影響は、チャンスが地理的に広く拡大する可能性にある。この2つのトレンドが重なることで、デジタルエコノミー関連の仕事がスーパースター都市に集中してきた長年の状況が打破されるかもしれない。
IT業界団体のCompTIAは、2019年の米国におけるIT職の空席が100万人近いと推定している。米労働統計局(BLS)の推定では、ソフトウェア開発者の雇用が2020年から2030年にかけて22%増加し、ほかの産業を大きく上回る見込みだ。
重要なのは、デジタルエコノミー人材が不足していても、サンフランシスコなどの都市からアイダホ州の州都ボイシなどに職が流出するといった労働力のゼロサムゲームが起きることはないだろうという点だ。これらのトレンドはむしろ、デジタルエコノミーの労働力の規模が拡大し、地理的に分散する可能性を示している。そして最終的には、従来ならデジタルエコノミーに加われなかった何百万人もの人々に、デジタルエコノミー職への扉が開かれることを示している。
デジタルエコノミー職が全米に拡散すれば、地方自治体の労働力の多様化につながり、地域の経済の低迷を抑制する。人々が従来通りの地元の仕事に加えて、デジタルエコノミー職にもアクセスできるようになるため、ある産業が打撃を受けても、地域経済はほかの産業の支出や税収に頼ることができる。
しかも、エンリコ・モレッティ教授の研究によれば、デジタルエコノミー職の雇用が1件創出されるごとに、ヘルスケアや教育、食品、ホスピタリティをはじめとする経済的に健全なさまざまな雇用分野においてさらなる地域雇用が創出されるという乗数効果があるという。
このトレンドの先陣を切る企業は、全米各地に分散している人材にいち早くアクセスできるため、多大な先行者利益を得ることができるだろう。ひとたび先行企業の採用が始まれば、ほかのデジタルエコノミー企業も人材獲得の競争力を維持するために追随しなければならない。また、企業にとっては喜ばしいことに、地理的に多様な人材が集まることは、人口統計学的にも多様な人材が集まることであり、それが企業の創造性と市場シェアの拡大につながることも明らかになっている。
デジタルエコノミー職の人材の地理的な広がり、そしてデジタルエコノミー職に対する関心の地理的な広がりを受け入れるために、デジタルエコノミー企業は見直しが求められる。すなわち、従来型の運用コストやインフラコスト、通信技術関連への支出と導入、そしてリモート、ハイブリッド環境における企業文化維持のための慣行などの見直しである。見直しのためのコストが、人材と仕事の質の向上によって相殺されるか否かは、現時点ではわからない。
求職者には、リモートワークの求人情報の急激な増加は雇用機会の拡大をもたらすはずだ。リンクトインの求人情報の分析によれば、リモートワークの公募求人を行う米国企業は2020年2月の時点では6.0%にとどまっていたが、2022年2月には34.2%に増加した。
これまでデジタルエコノミーに縁のなかった地域に暮らす人々は求職活動の選択肢を広げることができ、今まで手の届かなかった雇用が実現する可能性が生じる。デジタルエコノミー職に必要なスキルを持ち、電力とインターネットにアクセスできる人なら、デジタルエコノミーで稼ぐ機会を手に入れられるのだ。
一方、そうでない人は、取り残されるリスクを負う。この状況は、企業にとっては人々のスキルアップを支援する大きなチャンスになり、自治体やブロードバンド企業にとっては住民が必要なインターネットアクセスを入手するためのサポートをする大きなチャンスになる。
* * *
電信、電話、ファックス、インターネットなど、過去の数多くの通信技術の進化は、リモートで働く人の割合にこれほど大きな変化をもたらしはしなかった。今回は何が異なるのか。そこには、パンデミックによってもたらされたテクノロジーの変化よりも、社会的な変化が大きく関わっている。仕事に関する規範が変わったのだ。
もはや、オフィスで働くことがデフォルトではない。そのため、企業はリモートワーカーを積極的に採用するようになり、筆者らのデータが示すように、より多くの場所で、より多くの人々がリモートワークに関心を示している。
労働市場の企業、労働者、両面における変化が、スーパースター都市やライジングスター都市とは縁遠い人々にも、デジタルエコノミーに参加できる、未来の働き方の可能性を切り拓いている。
"Who Gets to Work in the Digital Economy," HBR.org, Aug 04, 2022.