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リモートワークやハイブリッドワークが浸透する中、新たな環境で人材育成を行うことに多くの組織が困難を感じている。その背景にあるのは、「学習が最もうまく進むのは、皆が同じ空間を共有している場合である」という間違った思い込みだ。実際、適切な設計に基づいたバーチャル学習は、対面式の学習と同等以上の効果があることがわかっている。容易に規模を拡大でき、柔軟な環境を提供することが可能だからだ。本稿では、バーチャル学習に対する懸念を解消し、よりよい学習体験にするための戦略を紹介する。

「同じ空間で学ぶべき」という思い込み

 リモートワークやハイブリッドワークへの移行は、多くの組織で長期的に継続する、あるいは恒久的に定着する可能性が高い。それに伴い、社員が常に、もしくは頻繁に同じ空間で過ごすとは限らない時代になり、人材をどのように惹き付け、育成し、つなぎ留めるかに関して、不安が高まっている。

 このような環境で人材育成を行うことを、不可能に近い難題と感じている人も多いが、これは、ある誤解が広まっていることに起因する。正式な学習にせよ、非公式な学習にせよ、「学習が最もうまく進むのは、皆が同じ空間を共有している場合である」という思い込みだ。

 なぜ、それほど多くの人がこのような固定観念を抱いているのか。たいていの場合は、皆が同じ空間を共有した状態での学習環境に馴染みがあるからだ。馴染みがあるがゆえに「正しい」あり方だと感じてしまうのである。

 しかし、あなたがこれまで、学習のほとんどを教室という物理的空間で経験してきたとしても、それがあなたにとって唯一の、あるいは最善の学習方法とは限らない。もちろん、既存のやり方で、あなたは多くのことを学んできただろう。だが、あなたは教室で学んだことをすべて、いまも覚えているだろうか。その教育方法は、あなたにとって最も有効で、最も効率的なものだったといえるだろうか。

 思い返してみてほしい。定期試験で結果を残すには、授業を受けただけでは不十分で、試験前になると家で対策をしなければならなかったのではないか。ところが、試験が終わるとあっという間に、勉強した内容をすべて忘れてしまうことも、少なくなかったのではないか。

 人間の脳が持っている皮肉な性質の一つは、新しい情報を保持することには非常に長けている半面、うまく学習できているかどうかの判断が極めてお粗末だということだ。

 長年にわたる研究の結果から、人間はそうした判断ができないことがわかっている。学習を楽しめているかどうか、学習が難しいか簡単かは、正しく判断できる。しかし、いま自分が学習できているかどうかを、その瞬間に判断することはできないのだ。その結果、よい学習とはどのようなものかという点に関して、しばしば誤った思い込みを抱き、それらが社会通念になりかねない。

 実は、学習がうまくいくかどうかは、よい学習設計を採用できているかどうかにかかっている。具体的には、人間の脳がどのように情報を受け取り、記憶に定着させるかを考慮した設計が必要とされる。

 適切な設計に基づいたバーチャル学習は、対面式の学習と同等の効果、多くの場合、それ以上の効果があることがわかっている。これは、バーチャル学習は比較的容易に規模を拡大でき、柔軟な形で提供することが可能で、ほかの業務と並行して取り組みやすく、長期記憶への定着を促すうえで効果的なタイミングで実行しやすいためだ。

 たとえば、96件の研究を対象に行われたメタ分析によれば、バーチャル学習は対面式の学習に比べて、平均で19%効果が高いことが示されたという。

 実際、対面式の場合には、学習の質が損なわれる場合が少なくない。たとえば、対面式でワークショップを行うと、少しでも多くのことを学ばせようとした結果、短い時間に膨大な量の要素を詰め込んでしまう。参加者に、学んだことをじっくり消化したり、練習したりする時間はほとんどない。

 とはいえ、バーチャル学習やハイブリッド学習に対しても、いくつかの懸念が指摘されている。だが幸いなことに、それらはすべて、以下の戦略を実践すれば解決する。