対人関係を快適なものにする

 ブレイクアウトセッションでは、学習者がインサイトを共有し、新たな知識を活用して、一緒に問題解決に取り組むことができる。そのような活動は、学習体験の重要な一部だ。また、貴重なネットワーキングの機会にもなることも少なくない。これまで接点を持てなかったような同僚と、つながることができるのだ。

 しかし残念なことに、バーチャル空間でのブレイクアウトセッションやネットワーキングの居心地が悪く感じる場合がある。どうやってそれを実践すればいいのかという規範やスキーマもない。

 規範とは、物事がどのように行われるべきかという共通認識のことだ。たとえば、米国では、歩道や廊下では右側を歩き、部屋に入る際に誰かがドアを開けていてくれたら「サンキュー」とお礼を述べることが規範になっている。

 スキーマとは、複雑な活動の進め方をステップ・バイ・ステップで理解するための脳内の「地図」のようなものである。たとえば、あなたはレストランで食事をする際のスキーマを持っているだろう。店内のさまざまな人たちの役割を知っていて、すんなりと注文ができるはずだ。

 ある状況に関する規範やスキーマがない場合、人は少し混乱する。誰もが居心地の悪さを感じ、そこでは生産的なことは何も起きない。バーチャル学習における対人関係面の居心地の悪さを和らげるには、次の2つの方法が有効だ。

 ●取るべき行動を学習者に指示する

 学習者に質の高いブレイクアウトセッションやネットワーキングを体験させたいのであれば、そのような場でどのような言動を取るべきかを、はっきり伝えるのがよい。

 EYでは、同じ時間をともに過ごすための、言わば「台本」を与えている。一人ひとりに役割を割り振り、明確な指示を言い渡し、どのようなことが起きるのかについて共通の期待をつくり出しているのだ。これらが明確になっていれば、ブレイクアウトセッションは、より自然でふだんと変わらない体験になり、奇抜だとは感じなくなるだろう。

 ●セッションを短時間に留める

 問題は、規範とスキーマが存在しないことだけではない。バーチャル空間では、うまくいっていない会話から逃げ出すことが、容易でない場合もある。対面式のネットワーキングでは、適当な理由をつけてその場を抜け出すことが、それほど難しくなかった。しかし、バーチャル空間では、逃げ場がなくなりがちだ。そのため、そもそも、その種の場に参加したくないと考える人もいる。

 ネットワーキングのための活動は短時間にとどめよう。そして、ネットワーキングのための場ではどのようなことを話せばよいか、例を示すことだ。そうすることで、ネットワーキングに参加しやすくなり、その時間を心地よく感じられるようになるだろう。

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 バーチャル学習とハイブリッド学習は、対面式の学習と同等の効果があり、大きな効果があることも多い。これらの学習体験の設計に関して少し注意を払えば、課題を克服し、すべての人がこの新しいハイブリッドの世界に適応する手助けができるはずだ。

HBR編注:本稿に示した見解は、筆者らのものであり、アーンスト・アンド・ヤング(EY)およびEYのグローバル組織のほかのメンバーの見解を必ずしも反映したものではない。


"Designing Learning Programs for a Hybrid Workplace," HBR.org, July 06, 2022.