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会社を去る決断をした後、いかに前向きな雰囲気で退職するか、悩む人は少なくないだろう。本稿では、そのような時に一つのツールとなる、退職届の使用法を提示する。退職の意思をみずからの言葉で示したり、期日を記録したりすることで、円満な退職のサポートに利用できるという。

退職届を出す必要はあるのか

 あなたはいまの仕事を辞める決心をした。前向きな雰囲気で会社を去りたいと考えている。そのためには、プロフェッショナルらしいやり方で退職の意思を明かし、周囲に知らせることから始める必要がある。では、退職届を出す必要はあるのだろうか。またそれは、誰に出すべきで、どのようなことを書けばよいのだろうか。

 これらの疑問に答えるために、キャリア・トランジションに詳しい2人の専門家に意見を求めた。『ロングゲーム 今、自分にとっていちばん意味のあることをするために』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者ドリー・クラークと、キャリアコーチでHBR Guide to Getting the Right Jobの寄稿者でもあるプリシラ・クラマンだ。

どうしても退職届を書かなければならないのか

 キャリアの次のステップに進むことを、上司には「対面やビデオ通話で」少なくとも2週間前に伝えるのが最善だと、クラークは言う。

 つまり、ほとんどの場合、正式な書面での退職届は必要ない。とはいえ、書きたいと思う場合もあるだろう。クラマンが指摘するように、退職届を書いても基本的に何の害もなく、簡単に書けるものだ。

退職届を書く理由

 理由1:紙の記録が残る

 マネジャーや人事担当者が、記録管理のために届けの提出を求める場合もある。要求されなくても、届けを出すことによって、あなたが退職を告知したことと、退職日が記録され、給与精算や責任の移行に関する事務処理に役立つかもしれない。

 理由2:業界や会社で慣習的に行われている

 勤務先によっては、退職届を提出するものと規定されているかもしれない。こうした慣習は基本的に地域や業界、組織によって異なるため、周囲の人に確かめる必要があるだろう。同じ会社を辞めた人に届けを提出したかどうかを聞いてみたり、あなたが信頼している人事担当者に手順を個人的に教わることもできる。

 理由3:退職について話をする際に役立ちそうな気がする

 上司に退職を伝えるのは気まずいもので、面と向かって言いにくい時もあると、クラークは言う。そこで、実際に会う直前に退職届をメールで送信すれば、話を始めやすくなる。上司はあなたの用件がわかり、あなたが話を切り出す前に用意ができる。

 理由4:退職に関するメッセージを自分でコントロールしたい

 退職届を書くことによって、いつ、どうして退職するのかを明確にすることができる。たとえば、上司があなたの退職を自分に都合のよいように話す(しかも、すべてを話さない)のではないかと不安なら、退職届を上司に送り、人事部や上司の上司にコピーを送るとよいだろう。「上司があなたのことをどう考えているか、今後の転職などに際して推薦状を書いてもらえるかどうか」について、あなたが主導権を握りやすくなるとクラマンは言う。

退職届の書き方

 ●何を伝えるか

 とにかく短くまとめること。クラマンが言うように「言わば取引の手紙であり、延々と書き連ねることは避けたい」

 宛先は、上司や人事部など、あなたが最も明確にメッセージを伝えたい相手を選ぶ。

 いつ退職するのか、次はどうする予定なのか、簡潔かつ明確に述べる。次の機会が決まっていなければ曖昧な表現でかまわない。「キャリアの次の章を探求するために退職します」といった表現で十分だろう。

 心から感謝していることがあれば、その気持ちも伝えるとよい。「礼儀正しく、誠実な姿勢が肝心だ」とクラマンは言う。

 自分が精力的に取り組んだプロジェクトや誇りに思っている業績など、具体的な内容を盛り込むことも考えてみよう。

 退職届の最後には、退職のタイミングや、任務や責任を円滑に引き継ぐために自分がやることなど、今後の段取りを記す。「円満な引継ぎのためにあなたができることを提案する」とクラマンは言う。

 ●書くべきではないこと

 退職届で意見や批判を伝えるのは避けたほうがよいと、クラークもクラマンも言う。「会社の欠点をひとつひとつ批判するようなことはしない」とクラークは述べる。

 不満があっても黙っている、というわけではない。退職時の最後の面談のほうが、不満を伝えるのにふさわしい。また、不当な扱いなど大きな問題が原因で辞める場合は、「おそらく人事部に報告や苦情を申し立てることになる」とクラークは言う。「もちろん重要なことだが、退職届はそれに適切な機会ではない」