有益でない注目

 今回、話を聞いた女性たちの多くが、過剰な詮索や懐疑的な見方にさらされることについて語った。このような偏った視線は、成功するかどうかが問われるミッドキャリアの時期に大きなダメージを与える。そして「有能さか、好感度か」という矛盾した選択を迫られる「ダブルバインド」(二重拘束)に陥る。

 あるエグゼクティブは、「成功しすぎるとイヤな女だと思われ、好かれると母親のようだと思われます」と語った。別の人はもう少し詳しく説明している。「コーチングや業績管理などをしたのちに、その役割に合っていない従業員を解雇したり、職務を変更したりして、批判されることがありました。私がそうした判断を下す回数は大多数の男性より少なく、配慮もしていましたが、『残酷』『優しくない』『配慮がない』というレッテルを貼られました」

 多くのエグゼクティブが報われるためには、より高いハードルをクリアしなければならないという報告もあった。ある女性は、ミッドキャリアの時期を振り返り「エグゼクティブ/コマーシャル・ディレクターに昇進してから、ゼネラル・マネジャーになるまでに11年かかりました」と語った。同僚の男性たちの一般的なパターンより長い期間を要したのだ。「私は3つの異なるマーケットで3回、自分の力を証明しなければなりませんでした」

不平等なアクセス

 ミッドキャリアの時期は、人間関係がジェンダーに大きく左右されるようになる。男性は、女性に比べてシニアリーダーに接触しやすく、女性の同僚より、男性の同僚との関係を優先することが多い。

 ミッドキャリアを迎える頃には「男性は『派閥』を築いています」と、あるエグゼクティブは言う。こうした排他的なネットワークが女性の機会を制限する。「その時期までに仲間に入っていなければ、次のチームに選ばれる可能性が劇的に減ります」

 会社でこのようなプロセスを目撃した人もいる。年配の男性リーダーは、若い男性社員に自分の姿を重ね合わせる。飲み会や食事に誘い、クライアントとのゴルフやテニス、プロスポーツ観戦に同行させ、オフィスでは男性の後輩社員と社交的な会話を交わす。その会社のクライアントはほとんどが男性で、社交の場で女性より男性を紹介するほうが簡単だった。

 これは意図的な排除ではないが、「ミッドキャリアにおける重要な昇進の決定は、キャリアの他の段階より人間関係の強さに大きな影響を受ける」ため、会社が昇進を望む女性を骨抜きにするようなものだったと彼女は言った。

 男性、特に権力のある立場の人が、社内の女性と強い関係を築こうとしない場合、図らずも女性たちのキャリアを制約し、従業員の能力に関する自分の知識を制限することになる。

ミッドキャリアの障壁を取り除く

 キャリアのどの段階であれ、男女の格差解消に取り組むことは重要だが、昇進に大きな影響を与えるミッドキャリアでは、その緊急性が高くなる。あるエグゼクティブいわく「ミッドキャリアのポジションは勝負の場である」と述べた。

 マネジャーは管理プロセスからどのようにして偏見を取り除き、ミッドキャリアの女性に公平な待遇と、彼女たちにふさわしい機会を与えることができるだろうか。

 重要なのは、業績評価と昇進という2つのプロセスだ。いずれもミッドキャリアにおいて顕著になるもので、筆者らや他の研究者の調査によると、この2つには男女差別が蔓延している。業績評価の基準が体系化されておらず、マネジャーが偏見を認識するための訓練を受けていない場合、男女が同じ業績に対して同等の評価を受けることはまずない。

 したがって、ミッドキャリアの女性を会社に定着させ、昇進させたいなら、客観的で測定可能であり、職務に関連する評価基準を成文化することが不可欠だ。専門サービス企業に詳しいある研究者によると、ジェンダー的に中立なフィードバックをリアルタイムで提供するツールをマネジャーが使えば、客観的な業績評価基準に従って、毎年のレビューで受け取るよりも有益で実用的なフィードバックを従業員に提供できる。

 公平に設計されたツールやシステムを使用しても、それを実行する人が(意識的または無意識に)持っている偏見により、結果が歪められることがある。したがって、企業は、偏見が生じた時にマネジャーがそれを認識し、軽減できるようにサポートしなければならない。そのようなアプローチは、敵対的である必要も懲罰的である必要もない。マネジャーが偏見の問題を提起できるように、心理的安全性を確保することで、偏見の問題を「議論できる」ものにする。偏見の問題をさらすのではなく、問題の解決に集中にするのだ。

 リーダーは自分が知らないことや間違っていることを認めることで、自分の弱さを認める手本を示す。社会的不平等や、それが組織で顕在化することについて真摯に学ぶ姿勢を見せることで、問題にアプローチするための土壌をつくることができる。

 そして企業は、昇進や報酬などのプロセスを継続的かつ厳格に監査する体制を整え、客観的に説明できない格差を見つけたら、是正に努めることによって、個人のコミットメントを支援して強化する。

 幸い、近年では多くの企業、特に大企業や中規模の企業が、職場における男女平等を明確に支持している。中には実際に行動で示す企業もある。

 2021年に筆者らが別の女性エグゼクティブのグループを対象に実施した調査からは、慎重な楽観論が見えてきた。彼女たちは自分が所属する組織の管理職のうち、インクルーシブであると思う人の割合が、2020年から10ポイント上昇していると答えた。また、2018年と19年に調査した同様の女性グループに比べて、組織のプロセスの大半において、ジェンダーバイアスが存在するという認識が減っていた。

 このような変化は、新型コロナウイルスのパンデミックや、いまも続いている人種平等を求める抗議活動を通じて、社会的不公平に対する意識が高まったことに関連する一時的なものなのか、それとも本当に前進している兆しなのだろうか。筆者たちは後者であることを願っている。

 そして、一連の調査に協力してくれた女性リーダーたちの背後にいる多くのミッドキャリアの女性が成功し、出世することを期待している。


"3 Workplace Biases that Derail Mid-Career Women," HBR.org, September 16, 2022.