
景気後退懸念から、人員削減や予算カットが続き、チームに陰鬱な雰囲気が漂っている。リーダーは部下の不安や怒りに気づいても、どうすれば士気の低下を食い止められるか正解を見出せずにいる。そのような状況で、下手に盛り上げようとしたり、叱咤激励したりしても、裏目に出るだけだ。リーダーがすべきは、従業員のモチベーション低下の根本原因を探り、彼らがみずから「自分のモチベーションを取り戻す」手助けをすることだ。本稿では、部下が上司に対して本当に求めているものは何か、それらを与えるためのシンプルだが実践的な方法を紹介する。
善意でも、安易な叱咤激励は裏目に出る
最近、従業員のモチベーションが低下しているように感じられるのは、何ら不思議ではない。
米国では景気後退懸念から、2022年第2四半期のレイオフ(一時解雇)は第1四半期に比べて39%増となり、上半期全体で13万3000人に達した。大退職時代(グレート・レジグネーション)は依然として続いており、リーダーの従業員に対する配慮が欠けていたり、昇進機会が乏しかったりするような「有害な職場」を辞める人は後を絶たない。
インフレにより、スーパーマーケットやガソリンスタンドの末端価格は上昇している。さらに「政治的二極化」は悪化する一方で、国際情勢の不吉な雲行きも晴れそうにない。モチベーションを低下させる要素が、これでもかというほど揃っているのだ。
リーダーは、チームに漂う陰鬱な雰囲気や不安に気づいていて、どうすれば士気の低下を食い止められるか悩んでいる。彼らの多くは反射的に、その場を盛り上げたり、やる気を起こさせたりするような言葉を口にしたりするが、裏目に出ることが少なくない。
「ポジティブなことだけ考えよう」あるいは「たしかに予算は大幅にカットされたが、まだ仕事があることに感謝しようじゃないか」といった言い方は、それが善意であっても、傷口に塩を塗るようなものだ。
チームのモチベーションが失われかけている場合、再びやる気を起こさせるのに役立つ方法がいくつかある。だが、まずは実際に何が起きているのか、現状を正確に把握することが重要だ。そもそも、モチベーションは誰かに与えられるものではなく、本人の選択であり、あなたがどうこうできるものではないことを理解する必要がある。
リーダーにできることは、自分の部下が、状況の許す限り、最大限のやる気を出す選択をしやすい環境をつくることだ。
ここで覚えておきたいのは、誰にでも効く万能薬はないことである。チームメンバーはそれぞれ、さまざまな感情や困難に苦しんでいる可能性がある。ある筆者のクライアントも最近、感情をあらわにしながら、次のように語った。
「部下に『燃え尽きてしまった』と言っている女性がいる。別の部下は、予算削減で自分の大切な担当プロジェクトが中止になったことに落胆し、怒っている。さらに別の部下は、兄弟が別の部署でレイオフされてしまい、どうすればよいか悩んでいる。いまや、私はみんなのセラピスト役だ」
人間のモチベーションは複雑なものだ。興奮や喜び、欲求、情熱、希望など、さまざまな感情が絡み合っている。
このような感情は、レジリエンスや楽観主義、自信、野心など、本人が持つスキルや特性に由来するものだ。モチベーションが低下している時、これらの感情や特性は消えてしまうのではなく、どこかに隠れてしまうか、別の感情に置き換えられてしまう。恐怖や怒り、不安、悲しみといった感情、そして徒労感や自信喪失の感覚が、モチベーションを高める要因に打ち勝ってしまうのだ。
リーダーの仕事は、従業員のモチベーション低下の根本原因を探り、彼らが時間をかけて「自分自身のモチベーションを取り戻す」選択ができるようにサポートすることだ。その手始めにすべきことを、いくつか紹介しよう。