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リーダーとマネジャーの違いについては、古今東西、さまざまな議論がなされてきた。両者に必要な資質やスキル、スタイルは対比して論じられることが少なくないが、それらを「リーダーのもの」あるいは「マネジャーのもの」と分けることは間違っていると、筆者は指摘する。つまり、時と場合に応じて、経営幹部はリードするだけでなくマネージする必要があり、中間層のマネジャーにもリーダーシップのスキルが欠かせない。本稿では、両者のスキルセットを持つことの重要性を論じ、実際にバランスを取るための処方箋を提示する。

リーダーの仕事とマネジャーの仕事は別物ではない

 リーダーとマネジャーの違いは、昔から大いに議論されてきた。リーダーとマネジャーは異なるタイプの人間なのだろうか。

 プラトンのような古代ギリシャの哲学者は、リーダーが持つさまざまな資質について熟考し、ルネサンス期のイタリアの政治思想家マキャベリは、リーダーとマネジャーの違いを論じた。20世紀のリーダーシップ研究の第一人者だった故ウォーレン・ベニスは、その長いキャリアにおいて、以下の考察を示したことで知られる。

・マネージャーは足元を見つめ、リーダーは地平線を見つめる。

・マネジャーは「いつ、どうやって」を問う。リーダーは「何を、なぜか」を問う。

・マネジャーは目先のことしか考えず、リーダーは長期的な視野を持つ。

 これらはすべて、リーダーとマネジャーは異なるタイプの人間であることを示唆している。だが、それは間違いだ。

 私たちはエグゼクティブであれ従業員であれ、誰もがリードすべき時にはリーダーになり、マネージすべき時にはマネジャーになるべきである。ある種の課題では、チームに方向性を示す強力なリーダーシップスキルが求められる一方、別の種の課題では、腰を据えて実行に専念することを求められることが少なくない。

 企業は、物事の全体像をとらえて対処する人と、細部に目を向けて賢明に働く人を別々に雇うのではなく、両者のスキルセットをバランスよく持つ人を採用すべきである。これらのスキルセットを「名詞」(リーダー/マネジャー)としてではなく、「動詞」(リードする/マネージする)で考えるべきなのだ。

 両者のバランスを取ることは、組織にとって最も重要なことである。さもなければ、組織のトップにいる「リーダー」は事業運営の詳細をまったく理解しないまま、組織の方向性を定め、中間層の「マネジャー」は部下を鼓舞したり、戦略を練ったり、あるいは必要に応じて反論を唱えることもなく、業務遂行に専念することになる。