原則5:ステークホルダーの意見を取り入れる
戦略を転換すれば、必ず誰かが不幸になる。既存の顧客や従業員の中に生まれた「慣れ」は、会社を間違った方向に導いている可能性がある。これを克服するために経営者は、透明性を持ってステークホルダーに製品ロードマップ、事業の方向性に関するビジョンや価値観を開示し、彼らの声を意思決定に反映していくべきなのだ。
マスクとツイッターがユーザーや規制当局、投資家とどのように関わっていけばよいかを考えるうえで、メタの例は格好の教材となる。
以前にも書いたように、メタはツイッター同様、ユーザーや規制当局が注視する中、SNSのコンテンツをモデレーション(不適切な内容の監視、選別、管理)
第2に、ザッカーバーグはプラットフォームのどの部分について説明責任を負うつもりがあり、また負えるのかに関して、ステークホルダーの期待に答えることができなかった。ふたを開けると「誰も責任を取る人がいないように線引き」をしているように見え、説明責任の範囲を明確にしていないとみなされた。
ステークホルダーの声を取り入れることは容易ではない。それがマスクのツイッターにおける最大のチャレンジかもしれない。電気自動車をつくる、火星に行くといったアイデアで人々の声を取り入れることは、比較的簡単だ。しかし、ソーシャルメディアとなると、ステークホルダーの意見が分裂している。買収に対する反応は、一同賛成からは程遠く、イデオロギーによって二極化している。総論としては、規制を強化するかしないかの問題であり、各論としてはトランプ大統領のツイッター復帰を認めるかどうかといった具体的な規制の問題がある。
また独自の考え方を持つ欧州や中国のステークホルダーにも対処しなければならないことが、さらにハードルを上げている。たとえばEUは、EUのデジタルコンテンツ規制に関するルールに従わなければ、「高額な罰金や禁止令」を受けることになるとマスクに警告している。
誰もがハッピーになれる解決策はない。マスクがどのような決断を下すにしても、ザッカーバーグの二の舞にならないように、ステークホルダーに対し、透明性を持ってトレードオフを伝え、自分の説明責任の範囲を明確にして、彼らと良好な関係を築く必要がある。
* * *
これまでマスクは一貫して、自分が描いた会社(そして社会)のビジョンに基づいて新しい組織をつくり、事業の成長を実現してきた。しかし、ツイッターのリーダー、オーナーとしては、それを断念せざるをえないだろう。
時代遅れのテック企業に初めてやってきた新しい経営者やオーナーは、組織文化の慣性に直面しながら、組織改革という難題に取り組まなければならない。マスクは、ツイッターで初めて、確立された文化的規範を変えるという挑戦を経験することになる。また困難なことに、マスクは過激なアイデアで悪名高いため、より強い逆風にさらされるだろう。会社のほぼすべての側面を自分でコントロールできていた時でさえ、その過激さで会社が何度も倒産の危機に追い込まれた。
ツイッターの再建は、どのような経営者も挑んだことのない類の難題であり、またマスクと、会社を立て直す彼の能力における究極の試練となるだろう。しかし、それを見守る私たちは、テック企業の戦略転換において、何がうまくいき、何がうまくいかないかを学ぶことができる。
"The Challenges of Transforming Twitter," HBR.org, October 14, 2022.