原則2:戦略を周知する

 どのような戦略も、組織の変革に有効であるためには、迅速かつ果断に伝達され、明確でシンプルであることが必要だ。具体的には「他の選択肢を最適に導く(あるいは強いる)ための最小限の選択肢の集合体」であるべきだとハーバード・ビジネス・スクールの同僚、エリック・ヴァン・デン・スティーンは述べている

 変身を遂げた航空会社ライアンエアーを例に挙げよう。この事例はハーバード・ビジネス・スクールの戦略コースで、ケーススタディとして取り上げている。

 ライアンエアーは一般的な航空会社だったが、業績が低迷したため、戦略を見直した。新たな戦略は、要約すると「低コストのビジネスモデルにより、欧州で最も安いポイント・トゥ・ポイント型(2地点の単純な往復)のフライトを提供する」という極めてシンプルなものだ。シンプルであるがゆえに、ライアンエアーの誰もが容易にその戦略を個々の状況に当てはめることができた。

 たとえば、空港で働く人が飛行機に荷物を積む際、搭乗橋とタラップ車のどちらを使うか選ばなければならないとする。戦略を知っていれば、その従業員は自身で容易に判断が下せる。つまり、コストの安いタラップ車を使うのだ。共通の戦略がすべての従業員の足並みを揃える。そして重要なのは、ライアンエアーのCEOがその判断に関与する必要がなくなったということだ。

 マスクには間違いなく、経営指針となるシンプルな戦略を自分の会社に伝える能力がある。テスラでは、「魅力ある大衆向け電気自動車をできるだけ早く市場に投入し、持続可能な輸送手段の実現を加速させる」という戦略を採ってきた。この戦略は、巨大な(または複数の)バッテリー工場を建設するかどうかや、小売り用充電ステーションの世界的ネットワークを展開するかどうかといった他の意思決定の指針になっている。

 マスクは就任早々、ツイッターの今後数年間のための決定的な戦略を打ち出す必要がある。自分が過度に関与しなくてもチームを導くことができる戦略だ。筆者らは、この戦略が少なくともツイッターがどのような製品に関与すべきか(動画、オーディオ、それともテキストのみか、など)と、どのようなコンテンツを許可すべきか(政治的発言や露骨な内容はどうか、など)に関して明確な方向性を示すべきだと考えている。

 いまのところマスクは、ツイッターの戦略について曖昧な態度を取っており、他人が熱心に自説を論じることにつながっている。彼がやりそうなことや打つべき手、やりかねないことなど、幅広い憶測が飛び交っている。マスクはこの騒ぎを封じ、ツイッターのチームが動き出せるように、明確な戦略を伝える必要がある。