男性的デフォルトをなくす、あるいは打ち消すにはどうすればよいか

 男性的デフォルトは根深いが、改善することはできる。たとえば、ハービー・マッド大学のコンピュータサイエンス学科では、2000年代初頭、卒業者のうち女性が10%未満だった。しかし、それから10年足らずで55%に増えた。これを達成した理由のひとつは、大学側が持っていた男性的デフォルトを分析して変えたことにある。

 彼らが実践したいくつかのステップを紹介しよう。それぞれの概要を説明したのちに、あなたの企業や組織で対面勤務、ハイブリッド、リモートワークについて交渉する際に活用出来そうな例を提案する。

 (1)男性的デフォルトを特定する

 まず、組織のさまざまなレベルの人に、(公式の文化も非公式の文化も含めて)組織の文化を構成する要素をできるだけ多く挙げてもらう。これらのリストに、組織のミッションや価値観、ポリシー、会議の進め方、職場の雑談で使われる言葉などを追加することもできる。

 次に、ステレオタイプ的な振る舞いや特徴をリストアップして、そこから浮かび上がる組織文化の要素を比較する。

 ハービー・マッド大学は、入試制度、入門課程のカリキュラム、教室のダイナミクスを検証して、ある男性的デフォルトに気づいた。入学前にプログラミングの経験がある学生は、より高く評価されていたのだ。高校において、女子は男子よりプログラミングの経験が少ない傾向にあるため、プログラミングの経験は男性的デフォルトと見なすことができる。また、黒人やラテン系の女子は、白人の女子に比べてプログラミングの経験を積む機会が著しく少ないため、この価値観は多くの有色人種の女性にとって特に問題となる。

 (2)男性的デフォルトの必要性を判断する

(1)で特定された男性的デフォルトは必要なものだろうか。つまり、組織の存続に不可欠か、あるいはあまりにも基本的な要素すぎて変えることができないものか。この問いは、男性的デフォルトを変えてもチームや組織が存続できるかどうかをリーダーが自問する機会になり、男性的デフォルトが必要かどうかを確認するために短期的にデフォルトを変えるという実験もできるだろう。

 たとえば、コンピュータサイエンス学科に「優秀な」学生を入学させるには、プログラミングの経験を重視する必要がある「ように思える」かもしれない。しかしこれでは、プログラミングのスキルを習得する機会がなかった優秀な学生を見つけることができない。ハービー・マッド大学の教職員は、プログラミングの経験がまったくない、あるいはほとんどない多くの学生が、より高度なコースで優秀な成績を収めていることを知り、プログラミングの経験を重視する必要がないことを理解した。

 (3)男性的デフォルトを取り除く、あるいはバランスを取る

 男性的デフォルトの問題に取り組む際は、2つの選択肢がある。

1. 男性的デフォルトが必要ないと判断した場合、それが組織のどこに、どのようにあらわれるかに注意を払いながら「取り除く」。

2. 男性的デフォルトが必要である、または取り除くことが難しいと判断した場合、女性的または非ジェンダー的デフォルトを重視することによって「バランスを取る」。

 ハービー・マッド大学は最終的にどちらも行った。カリキュラムを変更してプログラミング経験が豊富な学生をより高く評価することをやめ、プログラミング経験の豊富な学生が他の学生を威圧しないように配慮する方法を教職員に教えて、この男性的デフォルトを取り除いた。

 さらに、女性的デフォルトを重視することによってバランスを取ることも実践した。たとえば、入門課程の項目に「創造的な問題解決」を加え、プログラミングにおけるチームワークの重要性を強調した。

 同じような課題に、あなたの組織はどのように取り組めばよいだろうか。たとえば、ハイブリッド、対面、リモートの選択肢を検討するに当たって、チームミーティングや会合を再開させたいとしよう。

 まず、新しい仕事環境を導入するに当たり、定例会議や仕事後の交流イベントなど、対面とリモートのチームの集まりについて、それぞれの男性的デフォルトを検証する。男性的デフォルトが最も強く現れる場面を知ることによって、今後、同じような集まりの際にどのやり方を選べばよいか、リーダーは考えやすくなる。

 たとえば、月1回のチームミーティングで、一部の人の間で議論が盛り上がってしまったり、他の人の発言時間を奪ってしまったりしている。仕事ののちにバーで交流する。これらの場面で男性的デフォルトが見られる場合、そのようなミーティングや交流は、組織の存続のために不可欠だろうか。

 この問いに答えるために、現在と異なるダイナミクスが働いたらどうなるかを考えてみる。いくつか選択肢を試して、何が起きるかを確かめる実験も、現状の評価に役立つだろう。このような取り組みが白人女性だけを助けることにならないように、有色人種の女性にとっての結果も評価すると好ましい(数的に可能なら人種と民族別に行うと、なおよい)。

 現在のミーティングのやり方に問題があると判断したら、いまこそ好機かもしれない。リモート会議に切り替え、あるいは対面のミーティングの新しい運営方法を確立して、他人の発言を邪魔しないようにしたり、より多くの人が共有できるようにしたりする(発言する際は手を挙げる、順番待ちを可視化する、など)。仕事後のバーでの交流は、男性的な傾向が現れやすいだろう。そこで、人々が職場に戻ってコミュニティを築きたいと思っているいまこそ、たとえばランチタイムにも交流のイベントを催し、男性的デフォルトとのバランスを取ってみよう。