男性的デフォルトはどのように組織に浸透しているか
男性的デフォルトが潜行する原因は、職場におけるバイアスの一つである差別的待遇に比べ、特定することが難しいからだ。差別的待遇には、女性のほうが男性より賃金が低い、昇進を見送られる、いやがらせを受けるなどがある。つまり、特定の機会を女性が男性のように活用できない時に起きる。
一方、男性的デフォルトのドアは、男性にも女性にも開かれているように示され、機会は均等のように見える。しかし、職場では男性的なステレオタイプの行動が評価され、優遇される。男性的デフォルトは、価値観や規範、ポリシー、交流のスタイル、目標、個人の信念など、組織文化の至る所に染み込んでいるにもかかわらず、差別的待遇ほど目立たない。男性的デフォルトの下では、ルールは多くの男性にとって有利であり、多くの女性にとって、さらには男性的特性を示さない男性やノンバイナリーにとって、不利になる。
重要なのは、男性的デフォルトが文化や人種、民族によって異なることだ。たとえば集団的な振る舞いは、米国では一般に女性的と見なされるが、韓国の文化では男性的と見なされる。人間のデフォルトは白人、黒人のデフォルトは男性と見なされる社会では、黒人女性は目に見えない存在として扱われる。
男性的デフォルトは、なぜ多くの女性や、男性的な理想に当てはまらない人々に不利なのだろうか。なぜ女性は多くの男性のように、単純にこれらのルールを学んで従うことができないのだろうか。これには3つの重要な理由がある。
まず、男性と女性は基本的に社会化のプロセスが異なる。多くの女性は、男性的と見なされる行動を取る機会が男性より少ない。女性は男性的なステレオタイプを持つように社会化されていないから、あるいは自分がそのような特徴を持っていると思わないからだ。
たとえば、採用プロセスに男性的デフォルトが組み込まれている組織は、男性的な特徴を示すように社会化されていない人々を惹き付けることが難しいかもしれない。デジタル製品のデザインを手掛けるメイド・バイ・メニーはシニアデザイナーの求人広告の要項を「圧倒的な才能」と「意欲」を持つ人材から、「永続的な影響を与える心のこもったデジタル製品を生み出す機会に大いに興味を持つ」人材に変更したところ、応募者に占める女性の割合が15%から35%に増えた。
次に、女性が男性的なステレオタイプを示していても、認識されないことが多い。たとえば、ベンチャーキャピタルのピッチに関する研究では、まず、女性と男性の俳優が内容も話し方もまったく同じピッチをするように訓練を受けた。そして俳優たちはピッチを行なった。その結果、評価者は女性のピッチは男性のピッチより資金調達力が劣ると認識した。また、男性のピッチは女性のピッチに比べて、「事実に基づく」「論理的」「説得力がある」という評価が著しく高かった。
最後に、男性的なステレオタイプを持つと認識されている女性は、「男性的すぎる」と見なされて反発や処罰を受けることがある。たとえば、2013年にある専門職の能力開発プログラムに登録した女性は、男性の同僚からの否定的なフィードバックや仕事上の影響を避けるために、自分の貢献度を目立たないようにして、強い個性を抑えなければならないというプレッシャーを感じていると報告した。
ジェンダーのステレオタイプから逸脱することに対する反動は、人種によっても異なる。白人女性にとって男性的特徴と見なされるものは、他のグループの女性にとってはまったく異なるかもしれない。
たとえば、黒人女性は、自己主張が強いなど男性的デフォルトと一致するいくつかの振る舞いについて、白人女性や黒人男性が直面するような反動を経験しないかもしれない。つまり黒人女性はある程度の自己主張をするものだと見なされている。しかし、黒人女性はいまだに綱渡りを強いられている。自己主張が「怒れる黒人女性」というステレオタイプと見なされ、黒人女性の業績評価や昇進を妨げるのだ。このように有色人種の女性が直面する反動は、白人女性が直面するものとはタイミングも形も異なる場合が多い。