●あらかじめ「制限」のラインを定めておく

 あなたにもきっと同じような経験があるはずだ。多大な労力をかけて予算案を準備し、何度も修正を繰り返した後、長い承認プロセスを経て、ようやく最終決定する。しかし、市場環境の変化によって、数カ月、あるいは数週間のうちに予算が無意味なものになってしまう。

 従来の予算策定は、ビジネスのイノベーションと刷新に悪影響を及ぼす。コーポレートベンチャーファンドを有する大手製造業グループに筆者らが助言をした際、そのことを発見した。

 そのグループ内の既存企業は、従来のような計画策定が比較的うまくいっていたが、ベンチャーファンド内のスタートアップは、方針転換するたびに予算項目を承認し直さなければならず、苦しんでいた。

 そこで採用したのが「制限」だ。明確に定義され、綿密に計算されたラインをいくつか定めておけば、複雑な予算の再計算を行う際に、完璧ではないにせよ、物事を迅速に進めることができる。たとえば、単位当たりコスト、顧客獲得当たりコスト、新製品のローンチ数など、数多くの側面で、不安定な時期に合理的な制限を設定することができる。

 制限を設けることは、そこまで景気後退が深刻でない時期でも有効だ。あるサプライヤーが年度途中で価格を変更したり、新しい規制によってコストが高くなったりした場合、制限があることで、予算全体を毎回再承認することなく、チームに十分な情報に基づいた意思決定を行う自由を与え、マイクロマネジメントを減らすことができる。

「マネジャーは、既存の枠に囚われずに考える必要がある」とよく言われるが、一流のクリエイティブな人々が数多く指摘しているように、何か新しいものを創り出すには、まず「枠」が必要だ。私たちの創造的思考には、制限や制約が欠かせない。そして、戦略こそが創造性を発揮する最高の場なのである。

 過去の教訓を活かして、議論を前に進めなくてはならない。どのような制限を設ければ、マイクロマネジメントの必要性を最小限に抑え、チームに明瞭さを与えることができるだろうか。ある程度のコストか、地域の制約か、あるいは顧客セグメントの制約か。戦略プランを実行するに当たって、自社のビジネスが越えてはならない境界線があるとすれば、それはどのようなものか。