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多くの企業がDEI戦略を実行している。特に人種やジェンダーなど、デモグラフィック属性の多様性を確保するため、必死に取り組みを進めている。一方で「すでにチームには多様な考え方が存在している」と、思考の多様性を言い訳にして、必要なタスクに取り組もうとしないリーダーも少なくない。本稿では米国で急成長中のウイスキーブランドを例に挙げながら、企業が陥りがちな4つの落とし穴を回避し、デモグラフィック属性の多様性と思考の多様性の両方を実現する重要性を論じる。

あらゆる形の多様性を組織文化に取り入れる

 1850年代、テネシー州リンチバーグに奴隷として暮らしていたネイサン・グリーン、通称アンクル・ニアレスト。彼は、故郷の西アフリカで覚えた特殊な浄水技術を使って、ウイスキーをつくることで知られていた。サトウカエデの炭でウィスキーを濾過するその方法は、おなじみの「リンカーン郡製法」として知られるようになり、現在も使われている。

 実業家のジャスパー・ダニエルは、ニアレスト・グリーンの製法と製品に天才的な才能を感じた。ジャスパーは、南北戦争が終わると、ある蒸留所を買い取り、そこにファーストネームをジャックに変えた自分の名前を付けた。ジャックダニエルの初代マスターディスティラー(蒸留責任者)は、アンクル・ニアレスト。いまや自由の身となり、ジャックの師匠で親友となったネイサン・グリーンだ。彼はこの蒸留所で長年、引退するまで働いた。

 ニアレスト家の物語に感銘を受けたフォーン・ウィーバー(同家の数人にインタビューを行った)は、2017年に100万ドルの私財を投じて、グリーンの名を冠した蒸留所を設立した。そのアンクルニアレストはいま、米国で最も急成長しているウイスキーブランドだ。最初の4年間でウィーバーが調達した資金は、6000万ドルに上る。

 現在、アンクルニアレストは、アフリカ系米国人が設立し、所有する蒸留酒ブランドとして、史上最高の売上げを記録している。同社のウルトラプレミアムウィスキー3銘柄は何百もの賞を受賞し、そのうちの一つは「世界のウイスキーのトップ5」に挙げられている。

 700億ドル規模のワイン・蒸留酒業界で、黒人が経営する酒造会社は1%に満たず、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)のリーダーシップが不足する中、黒人女性であるウィーバーは、最初から苦戦を強いられるとわかっていた。しかし、彼女がひるむことはなかった。

 ウィーバーは、史上初の黒人蒸留責任者となったアフリカ系米国人を記念する最初の蒸留酒として、そして壁を打ち破るようなインクルーシブなブランドとしての歴史をつくろうとした。さらに、業界トップの企業になることを目指した。それを実現するために彼女が取った戦略は、「思考の多様性」を含む、あらゆる形の多様性を取り入れることだった。