「思考の多様性」という難しいテーマ
研究者であり、コンサルタントでもある筆者は、「思考の多様性」という言葉には注意している。基本的にはよいことだと思っている。さまざまな考え方をする多くの人から多くの意見が集まるほうが、パフォーマンスは向上するからだ。
しかし、この概念はスケープゴートとして使われることも多い。人種、ジェンダー、性自認、性的指向、障害など、DEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)に関する難しい会話を避ける一つの方法となっているのだ。
「チームには多様な考え方があるのだから、人種やジェンダーなどのデモグラフィック属性による不公平や、チーム構成員の比率を変えることに囚われる必要はない」というリーダーの声を、これまで数えきれないほど耳にしてきた。
経営陣のほとんどが男性、白人、同じ大学の出身者や同じような社会経済的背景を持っているメンバーで構成されていても、思考の多様性を言い訳にして、それ以外のDEIに関する必要なタスクに取り組まないでいるのだ。
DEIの真の向上には、属性と思考、両方の多様性が必要だ。思考の多様性は、必ずしも期待した場所で見つかるとは限らない。
意図性が持つ力
フォーン・ウィーバーは、アンクルニアレストに一般的な多様性だけでなく、思考の多様性をもたらすことを意図していた。
「経営者が黒人女性だから、DEIについてはあまり考えなくてもよいのではないか」と思う人もいるかもしれない。だが、そうではない。どのような組織であっても、デモグラフィック属性の比率に関係なく、雇用や昇進など、システミックな構造の中で然るべき公平性を担保すべく、意図を持って取り組まなければならない。そこには、組織文化を、多様で公平で包摂的なものにするという強い意識が必要なのだ。
それは、デモグラフィック属性の多様性が大きく欠如している業界で、従業員を雇用することから始まった。創業にあたり、ウィーバーには、マイノリティを優先的に採用するという選択肢があったかもしれない。だが、彼女はそうは考えなかった。
たとえ他社がそうしていなくても、マイノリティが経営する企業が最高レベルの成長と成功を目指すならば、多様性を優先して採用しなければならないと、ウィーバーは断言する。たとえば、「黒人だけが優秀」といった考えは、最終的にビジネスや、そのビジネスによってポジティブな影響を受けるはずのコミュニティに不利益をもたらすという。
「私はアンクルニアレストを、ジムビーム、ジャックダニエル、ジョニーウォーカーなど、150年続いてきたブランドと肩を並べるブランドにしたいのです。多様性を制限していては、それは実現できません」
誤解のないように言うと、ウィーバーは自分のチームにデモグラフィック属性の多様性を求めている。DEIの追求において、その部分をなおざりにはしていたわけではなかった。単に「その点だけに興味があるのではない」と言いたかっただけだ。
つまり、さまざまなタイプの人々、特に思いがけない人々からもたらされる思考の多様性が、アンクルニアレストというブランドを属性の多様性を超えたブランドにする。思考と属性の多様性こそが、アンクルニアレストを大手と競い合う存在にする、ということだ。