ウィーバーが、デモグラフィック属性の多様性と思考の多様性を育むことに成功したのは、多くの企業が陥りがちな4つの落とし穴を、おおむね回避したことによる。

 落とし穴1:明確な組織文化が欠如している

 多くの企業では「自分たちが何者で、何を目指しているか」が明確ではなく、その点について熟考する機会も少ない。一方、ウィーバーの場合、従業員が働き始める前から、思考の多様性を育んでいる。というのは、履歴書を提出しようとする応募者に、事前に同社の10大理念を確認させているのだ。そこには、多様性に対する同社の思いが明確に記されている。

 落とし穴2:最初から意図が欠如している

 DEIの取り組みが最高レベルであると筆者らが認めている企業も含め、現在、ほとんどの企業は、デモグラフィック属性の多様性に関して、遅れを取り戻そうとしている段階だ。

 ウィーバーは、思考の多様性を具現化し、自分自身を取り巻く現実世界を反映するようなチームを構築しようと考えた。もちろんそれは、彼女が望む組織文化を形成するためだが、ワインと蒸留酒の市場で大きな競争優位を持つチームをつくるためにも、同様に不可欠なことだった。

「私は、アフリカ系米国人です」と、ウィーバーは言う。「しかし、最初に採用した2人は白人でした。皮膚の色ではなく、エネルギーを求めていたからです。エネルギーを求め、思考の多様性を求め、自分の会社を米国のようにすることが欠かせませんでした」

「いま、私のチームを見ていただければ、米国の人口構成とほぼ同じであることがわかるでしょう。従業員の半数が女性です。強いて言えば、黒人、ラテンアメリカ系、LGBTQの割合を増やそうとしてはいますが、目標はあくまでも、米国の縮図になることです」

 落とし穴3:DEI戦略にトレードオフが認められていない

 金融やIT、そして酒造などの主要業界には、過小評価グループの出身者は少ないのが現実だ。それは、歴史的にアクセスや機会が制限されてきたシステミックな構造による。多様な人材のパイプラインを構築するために、企業はトレードオフを戦略に組み込む必要がある。

 リーダーはこのような格差を認め、それを是正するには、時間と犠牲が必要なことを認識しなければならない。

 組織がリーダーシップの多様性を高めようと決めた場合、空きポジションに対して多様な候補者を何人か選出してから判断することが必要になる。実際にそのポジションを埋めるには、予想以上に時間がかかる可能性がある。

 一般的な上位校以外から、人材を集めなければならないかもしれない。その職種に従来必要とされていた条件(たとえば、学部卒以上)が、実際の成功指標になっているかどうかを見直す必要もあるかもしれない。さらには、他の業界や業務でキャリアを積んできた、これまでとはまったく異なる候補者を検討する必要もあるかもしれない。

 経営陣は、DEI戦略を実行する機会を、明確につくり出さなければならない。それには、必ずトレードオフが必要になる。

 ウィーバーは、最も多様性のあるチームを構築するために、トレードオフを受け入れる覚悟があることを明言している。

「間違った人材を採用するくらいならば、2年間でも、そのポジションを空けたままにしておきます。たとえば、女性従業員が40%に下がるとしたら、そのポジションは女性のために空けておくでしょう。それは、会社の女性比率も米国の女性比率と同じであってほしいと考えているからです」

 落とし穴4:多様な組織文化があれば、DEIの取り組みは必要ないと考える

 アンクルニアレストのように、デモグラフィック属性の多様性を実現しても、DEIプログラムの必要性がなくなるわけではない。プログラムを通じて、そのような組織文化を醸成し続けなければならない。さもなければ、組織の中の「多様な従業員」に、DEIの仕事を押しつけることになる。

 つまり、彼らに生きた経験を語らせ、「同性愛者や先住民、あるいは障害者であるとはどういうことか」という難しい会話をリードさせることになってしまうのだ。彼らに、それぞれのグループ全体を代表させようとするのは、不公平である。

 現実として、個人的な経験を語ることはできても、ほとんどの人は特別な教育や訓練を受けていないため、DEIに関する難しい会話を進めるスキルを身につけていない。そのため、デモグラフィック属性の多様性と思考の多様性を実現した組織であっても、専門的なDEI教育や包摂性を生み出すための他の取り組みを行うことに利益があるのだ。

「私たちは、定期的に多様性に関するトレーニングを実施し、タルサ虐殺事件[注1]やジューンティーンス[注2]などのトピックについてチームを教育しています」と、ウィーバーは言う。

「彼らの体験を一緒に追体験してもらい、自分自身の暗黙の偏見に気づくためのスキル構築に取り組んできました。メンバーからは、トレーニングを行う際に毎回、このようなトピックについて誰もがともに学べる場があることが、企業文化の好きな点だという声が、必ず挙がります」

[注]
1)1921年、米オクラホマ州タルサ市で「「黒人のウォール街」と呼ばれたグリーンウッド地区で起きた、白人暴徒による黒人虐殺事件。
2)奴隷解放記念日(6月19日)。2021年、連邦祝日に制定された。