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職場のいじめは対処が困難である。そこで本稿では、いじめを15種類に分類し、それぞれの特性に合わせて対処法を紹介する。分類の軸は、いじめの内容と、いじめが誰から誰に対して行われているかである。筆者らは、このような形で職場のいじめに対処せず、いじめを行う人間を無視したり、なだめたりしていると、良心的な人材を失うだけでなく、組織に毒が回ってしまうと警鐘を鳴らす。

職場のいじめに対処する方法

 無礼有害な人材が組織にもたらすコストは周知の事実だが、職場におけるいじめは相変わらず大きな問題だ。米国では推定4860万人、つまり労働人口の約30%が職場でいじめを経験している。インドでは、その割合は46%、あるいは55%とも言われ、低めのドイツでも17%と無視できない数字だ。

 このような数値であるにもかかわらず、いじめへの注目は高まらず、効果的な対策も取られないケースが多い。

 職場の健康とウェルビーイングを最大化するためには、地位に関係なくすべての従業員が安全に過ごせる職場づくりが肝要だ。体系的な組織レベルのアプローチを取ることで、さまざまなタイプのいじめに関連する被害を防ぐことができる。

職場のいじめ」という表現には多岐にわたる行動が含まれ、その複雑さゆえに対処することが難しく、またその効果が上がらないことも少なくない。本稿では、さまざまなタイプのいじめ、リーダーによる対処を阻む誤解、そして、組織が効果的に介入して安全な職場をつくる方策について論じる。

いじめのさまざまなタイプ

 いじめ防止に向けた包括的なシステムを構築し、従業員の心理面の健康をサポートするために、リーダーはまず、いじめの種類とその表れ方について理解する必要がある。健全な組織文化を醸成するために、筆者らはいじめを15種類に分類した。この分類は、攻撃性の標準的な類型ワークプレイス・ブリーイング・インスティチュート(WBI)のデータ、そして筆者の一人であるルドミラが25年以上にわたり行ってきた職場での攻撃や差別、無礼な行為に関する研究と実践をベースとしている。

 ここに挙げた15の特徴は、いじめを行う人の典型的なタイプにある程度対応している。たとえば、怒鳴る、拳で叩くといった行為と結びつく「スクリーマー」(金切り声で叫ぶ人)や、そこまで激しくはないが危険性は同程度に高く、マキャベリ的な策略やガスライティング、中傷キャンペーンを駆使して相手からリソースを奪ったり、相手を追い出したりする「スキーマー」(策略家)である。スキーマーは正当な権限を持つ人物とは限らず、笑顔でサポートしてくれる同僚や、無邪気なインターンの仮面をかぶっている場合もある。

 敵対的な動機とあからさまな行動がスクリーマーのいじめと合致する一方、間接的で隠れて行われるいじめはスキーマーの典型といえる。とはいえ、いじめには意識的なものから無意識のものまで、さまざまな動機と多様な戦術が存在する。

 本稿筆者の一人、キャロラインは、意識と無意識双方の力学が表れた状況を仲裁した経験がある。高い業績を挙げたエワを祝う受賞レセプションで、同僚のハーパーは自身の功績の話ばかりした。そのうえ檀上に上がった際には、自分がエワを指導し、共同作業を行なった結果、エワの高業績が実現したと語ったのだ。

 だが実際には、指導も共同作業もなかった。あからさまに、そして直接的にエワをおとしめ、(おそらく無意識のうちに)自分の立場を高めようとしたハーパーの行動は、それだけでは収まらなかった。彼女は、重要情報の配付先リストから「うっかり」エワを削除した。これは、間接的かつ隠れて行う妨害行為に当たる。

 次の例は、ルドミラが遭遇した、さまざまな動機と戦術が入り混じったケースだ。外国人に強い嫌悪感を持つマネジャー、チャールズは、就労ビザで働くノアを人目につかない場所で定期的に罵倒していた。敵対的で直接的ないじめである。

 さらにチャールズは、ノアが築き上げたハイリスクで注目度の高いプロジェクトを引き継ぎたいという思いに駆られ、間接的かつ隠れたいじめも行っていた。ノアの解雇を正当化するために、彼女の業績記録を改ざんしたのだ。