上司による部下いじめの防止
自分より下の立場の人を標的とする「下方へのいじめ」を防ぐためには、HR部門と経営陣が些細なシグナルにも目を光らせる必要がある。360度評価や情勢調査は有用で、入念に読み込むべきものだが、最も重要な情報は行間に隠れている場合もある。
いじめや脅しを受けている人は、匿名の調査であっても、自身の現状を伝えることで職を失ったり、上司に攻撃されたりするのではないかと恐怖心を抱くかもしれない。
「ここで共有することは特にありません」「この問いに答える立場にありません」「この問いには以前も答えたと思います」「この人物が業務遂行のために多大なプレッシャーを受けていることを知っています。彼らは極めて困難な業務に当たっています」といった表現で、複数の従業員が回答を拒んだら赤信号だ。心理的安全性の向上に焦点を当てたリーダーシップの育成が必要かもしれない。
組織の弱点評価をさらに進めるためには、情勢調査を分析して、チームや部門ごとの状況や根本的な課題を明らかにするとよい。キャロラインは360度評価とカルチャーアセスメントを用いることでクライアントと密接に連携し、エンゲージメントとリテンション、成長の妨げとなるいじめの是正に向けて、リーダーシップへの介入や目的志向の改革戦略を特定・設計している。
部下による上司いじめの防止
自分より上の立場の人を標的とする「上方へのいじめ」を防ぐためには、明確な役割と行動規範を備えた透明性の高い企業文化が必要だ。従業員は入社する際に、ポジティブな環境づくりに貢献する責任を理解する必要がある。
新任マネジャー向けの研修には、上方いじめを含む、さまざまな対人関係のシナリオに対処法を含めるべきだ。たとえば、業績不振や攻撃的な言動にきちんと向き合えないリーダーは、意図せずして、上方いじめを行う人に力を与えてしまっているかもしれない。
無礼な行為や人を操る行為、攻撃的な行為に正面から向き合う自信とスキルをリーダーが備えていれば、早い段階で上方いじめの芽を摘むことができる。そのようなシナリオのロールプレイングを通じて、必要な自信とスキル、メンタル面の「台本」を手にすることができるのだ。加えて、従業員だけでなく監督者のサポートもできるような苦情処理システムを整える必要もある。
水平的・多方面へのいじめの防止
個人が同僚をいじめる、集団が複数の方向に向かっていじめを行うといった水平的・多方面へのいじめを防止するには、組織内に不健全な競争環境をつくらないことが重要だ。そのためには、熾烈な競争を助長する「ランク・アンド・ヤンク」(年に一度、業績の極めて悪い従業員を特定して解雇する制度)による評価を避けることがカギとなる。
公平かつ透明性のある形でリソースを分配し、チームと個人の報酬のバランスを取るよう留意しよう。また、部門横断的なパートナーシップでは、コラボレーションを促進するために共通の評価指標をベースにすべきだ。
さらに、組織の継ぎ目に存在する緊張に、建設的な形で対処するメカニズムも開発する必要がある。たとえば、共通の成果に向かって協力すべき人を定期的に、心理的に安全な環境で招集しよう。
最後に、透明性を確保し、模範を示すことで、「ドラマの三角形」(迫害者・犠牲者・救済者からなる不毛な心理ゲーム)や相手を操作する行為を阻止しよう。
どのような人間関係にも、うまくいかないリスクは付きまとう。経験豊富なマネジャーであっても、特定の状況における文化的・心理的なニュアンスは理解できない場合もある。
理想を言えば、心理面のウェルビーイングの最大化を目指す組織においては、マネジャーも従業員も専門家のサポートを得られるとよい。この専門家は、心理的健康や健全な人間関係、職場における健康を開発・維持するトレーニングを受け、中立的な立場で関与できる人材であるべきだ。
いじめ問題への対応は簡単ではないが、きちんと対処すれば、ウェルビーイングと帰属意識を体系的にサポートし、組織の崩壊を防げるだろう。いじめを行う人間を無視したり、なだめたりしていると、良心的な人材を失うことになってしまう。そのような組織にはいずれ、有害な個人と無秩序な企業文化の臨界点に達し、毒が回ってしまう。
"How Bullying Manifests at Work - and How to Stop It," HBR.org, November 4, 2022.