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貧困に苦しむ小規模農業の従事者は世界で5億5000万人に上る。ドイツの医薬、農薬大手バイエルはさまざまな組織と協力して、苦しむ農家を支援し、農家、バイエル、地域や関係者を含め、ウィンウィンの関係を築くことに成功した。本稿ではその取り組みを具体的に紹介する。

100万人の農民を貧困から救い出したバイエル

 10ヘクタール以下の農地でかろうじて自給自足の生活を送っている小規模農業の従事者は、世界で5億5000万人に上る。彼らは最貧困層に属しており、気候や病気、害虫、雑草、不安定な価格、季節によって変動する栽培条件など、果てしなく続く難題に、なけなしの資金で立ち向かっている。

 ライフサイエンス分野で世界をリードするドイツの医薬、農薬大手バイエルのような巨大多国籍企業にとって、そのような人々への支援はビジネスとして成立しないように思えた。だが、HBRの以前の記事で触れたように、バイエルは民間および公共部門の組織と協力して、インドやインドネシア、バングラデシュの小規模農家が市場、融資、高品質の農業資材、近代的な農業とビジネス手法に関する教育にアクセスできるよう尽力してきた。

 このシステムを支えるのは、独立して運営される「ベターライフ・ファーミング・センター」のネットワークだ。各センターは最大500の小規模農家を、バイエルやパートナー企業、NGOの機能や製品、サービスにつなげていく。この新たな包括的エコシステムによって、バイエルは市場規模を拡大させながら、これまでに100万人の農民を貧困から救い出してきた。

 同社はメキシコ南東部と中米で、2400万頭以上の家畜を飼育する何十万人もの酪農家の貧困問題についても同様の取り組みを進めており、同じような成果を上げている。

問題点

 典型的な小規模酪農家は、25~30頭ほどの牛を、同じく25~30ヘクタールの土地で放牧している。毎日生産される牛乳を地元の牛乳加工業者やチーズ製造職人に販売し、2週に1度、現金収入を得て、労働者への給与や債務返済、農場の運営資金に充てる。

 雨と湿気の多い4月から11月中旬にかけては、家畜のエサとなる牧草の供給が安定しており、大変な長時間労働ではあるが、業務はおおむね順調に進む。

 問題となるのは、牧草の生育が不十分でエサが足りなくなる乾季だ。酪農家は家畜に他の作物の刈り株を食べさせ、高価な牧草ロールを最低限必要な量だけ補って家畜の命をつなぐ。乾季の間に、家畜の体重は最大90kg(体重の20~25%)減少し、乳量も50%減る。また、病気にかかりやすく、繁殖力も低下する。

解決策

 以前からこの地域の穀物農家に種子を販売していたバイエルは、酪農家を苦境から救いつつ、販売を拡大できるチャンスを見出した。同社のソリューションとは、雨季の間に酪農家の放牧地の一部にトウモロコシを植えさせ、適切な時期に収穫してコーンサイレージ(トウモロコシを細かくして乳酸発酵させたもので長期保存が可能となる)を行えるように訓練をすることだ。酪農家は保存したコーンサイレージを乾季の間、家畜の飼料として使えるようになる。

 バイエルは、酪農家の新たなビジネスモデルの実践を支援するため、農学者と獣医師による専門機関DKサイロズを設立した。DKサイロズのチームは、獣医や機械販売業者といった既存の地元サプライヤーを新たな流通ネットワークに統合し、そのネットワークを介して高品質の種子をはじめとする農業関連品を酪農家に供給した。さらに、このネットワークは、酪農家への融資や、生産物を地元や地域の顧客に販売することに取り組んだ。