
採用面接で「最高の人材だ」と判断しても、入社後のパフォーマンスが期待通りであることは少ない。そこで、筆者らが推奨するのが「実用最小限の能力の証明」と呼ばれるアプローチだ。これは、スタートアップが最終的にプロダクトの生産を始める前に「実用最小限の製品」(MVP)をつくり、消費者の反応を伺うのと同様に、そのポジションに期待されるパフォーマンスを検証できる課題を採用候補者に与え、実際にどのような行動を取るかを見るものだ。本稿では「実用最小限の能力の証明」とは何かを概説し、採用後のパフォーマンスを予測する手法について論じる。
スタートアップの「実用最小限の製品」に倣う
採用担当マネジャーは、募集ポジションに「最高」の人材を起用したいと思うものだ(ポジションごとに「最高」の意味するところは異なるだろう)。しかし、誰が適任なのか、どうすればわかるのだろうか。
これはシンプルな問いだが、その答えはシンプルではなく、失敗した時のリスクも大きい。誰も採用できなかった場合のコストは、スケジュールの遅延からサービスレベルの低下まで多岐にわたる。間違った人材を採用した場合のコストは一般に、その人物の給与の30%から50%とされることが多い。あるいは、それ以上になることもある。
伝統的な選考と採用のアプローチが的を射ていたことはないが、仕事そのものの性質が急速に変化していることを考えれば、従来のアプローチではその効果はいっそう制限される。
スタートアップでよく行われるのが、最終的なプロダクトの生産を開始する前に「実用最小限の製品」(MVP)をつくり、消費者の需要がどのくらいあるかを調べることである。採用担当者も同じような戦術を使えば、採用候補者に関してよりよいインサイトを得られるのではないだろうか。すなわち、採用プロセスを再構築し、採用候補者の真の能力とポジションのマッチング精度を高め、同時に採用のダイバーシティを高めるのだ。このアプローチを実際に採用することは可能だと、筆者らは考えている。
ただし、そのためには、採用面接に対する考え方を変えることに前向きでなければならない。なにしろ、現在の採用面接の原型は、第一次世界大戦中の兵士を対象にした心理適性検査だ。たとえ面接の問いが適切なものだったとしても、その場で採用後のパフォーマンスを正確に予測できることはほとんどない。
面接が教えてくれるのは、質問に答える能力やその人の持つ知識や意見、情報の優先順位を見極める能力にすぎない。そのすべてが、募集しているポジションに必要があるかどうかは別の話だ。
伝統的な面接では、採用担当者と似たようなタイプの人材、すなわち「ミニ・ミー」が採用される可能性が高い。どれだけ客観的なつもりでいても、避けることのできない認知エラーだ。組織心理学者のアダム・グラントは、これを「『私にはバイアスはない』バイアス」と呼んでいる。
考えてみてほしい。誰かが面接を終えてあなたのオフィスを退室した時、あるいはズーム面接を終えた時、「よい面接だった」と思えるのはどのような時だろうか。それはたいてい、相手との間につながりを感じた時、つまり自分との間に何らかの共通点を見つけた時だ。相違点を見つけた場合「よい面接だった」とは思えない。
私たちは誰しも、人間であるがゆえに、このつながりの感覚を能力の代わりに評価する傾向がある。DEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)の推進がいっそう重視される現代社会で、面接というのは実のところ、DEI目標の達成を難しくする手法なのだ。