経歴よりも潜在能力を重視する

 職務記述書には通常、学歴と経歴の具体的な要件が並んでいる。これでは、その仕事ができるのに、特定の資格を欠いていることを理由に候補者が応募を断念する可能性がある。人材探索の範囲を広げるために、企業は学位からスキルへと焦点を移すとよい。参入障壁を下げるのではなく、変更するのだ。

 たとえば、ある管理職ポストの要件として、上級学位、一定の経験年数、あるいは特定の用語や概念への理解を前提とするのではなく、ふさわしい資質があるかテストを行うことができる。

 マッキンゼーは、優秀な人材の供給源となる大学の対象を、2020年の主要約700校から、今日では約1400校に拡大した。今後数年以内に5000校以上に広げることを計画している。現在ではゲームベース・アセスメントを用いて、候補者がクリティカル・シンキングの能力を発揮できるようにしている。これによって、過去に実務経験がない人や、ケーススタディに備えるためのサポートを受けていない人に対しても条件が平等になる。

 逼迫した労働市場を踏まえ、多くの雇用主がこの方向に動いている。一例として米国政府の公式方針は、連邦政府との契約において「学歴要件の提示を制限する」ことを掲げ、2021年に政府は連邦政府機関に対し、「スキルと能力に基づく採用を増やす」よう呼びかけた。

 セキュリティで保護されたビジネスアプリケーションを提供するオクタは、人材募集の範囲を広げるために、一部のセールス職で大学の学位を要件から外し、新入社員を訓練するための優れたプログラムを開発した。

既定のキャリアパスではなく、セルフオーサーシップを重視する

 調査によれば、従業員は柔軟性とウェルビーイングが促進されるような形に自分の仕事をカスタマイズしたいと望んでいる。さらに、事前に決められているキャリアコースに従って出世の階段を昇っていくのではなく、自分で自身のキャリアパスを築きたいと考えている。仕事の本質が急激に変化し、スキルがいかに短期間で陳腐化しうるかを踏まえれば、従業員は自分のキャリア開発をみずから主導しなくてはならない。

 パンデミック期間に離職してから再就職した人々のうち、その大半は異業種の職に就いていた。これは、異なる業界でも通用し、需要のあるスキルの持ち主、たとえばデータサイエンティストやブロックチェーンエンジニアなどにとっては、特に容易である。ここから示唆されるのは、企業は単に、以前と同じような人材で空いているポジションを埋めればよいわけではない、ということだ。

 最近の調査によれば、離職した従業員の約3分の1は起業するために辞めている。自分で事業をやったほうがうまくいくと考えたのだろう。

 彼らが自力で得られるよりも多くの能力開発、実習訓練、機会を雇用主が提供することで、この筋書きを覆すことができる。これを実践する新しい方法として、従業員に自分のチームを自分で選ばせたり、社外で一定期間の実習をしてから復職することを認めるなどの例がある。

 自律的な学習は、個人の向上心と会社の優先事項の両方を後押しする。これを必要に応じて適時実行できるケースもある。マッキンゼーではインタラクティブなシステム「ラーンナウ」(LearnNow)を通じて、従業員が弁論術からデータビジュアライゼーション、財務会計まで学びたいスキルを選び、自分の好きな時間に学ぶことができる。マッキンゼー独自のソースと、コーセラやクラウドアカデミーといった外部ソースの両方を使うことが可能だ。

 自律的な学習においては、特定のスキルを公式に認定する「バッジング」を通じて、長期的なスキル開発を促進することもできる。バッジは信頼を確立し、教授者の専門知識を受講者に提供することを保証する。受講者にとっては学習を続けるモチベーションにもなる。

 IBMは2015年にデジタルバッジ・プログラムを開始した。これにより、学習とエンゲージメントが大幅に向上したと報告している。取り組みを魅力的なものにするには、バッジが実質的な価値を伴わなければならない。外部者による認証や、社内での報奨などだ。

 これらの資格を、更新とアクセスが容易な学習記録にまとめておくと便利だ。従業員にとっては学習内容の記録・把握に役立ち、組織内の諸部門は求めるスキルの持ち主を見つけやすくなる。