勤続期間ではなく、達成したインパクトを重視する
従来型のキャリアパスにおいては、業績考課と昇進は勤続年数と強く関連していた。出世の階段を昇ることは、文字通り「時間の問題」といえた。
しかしながら、在職期間とパフォーマンスの関係はひいき目に見ても曖昧であり、まったく関連しない可能性もある。加えて、この傾向はパンデミック以後の状況では成立しない。従業員はより多くを求めており、離職に対する悪いイメージはほとんどない。離職することが普通であり、2022年のリンクトイン・ラーニングレポートの調査によれば、職を変えた回答者の割合は2019年10月~2021年10月の間に25%増加している。
マッキンゼーは長きにわたり、「アップ・オア・アウト」(昇進するか、辞めるか)の方針で知られてきた。従業員は予測通りに昇進する。もしそうでない場合は転職を促されることもある。
この点に関して、我々の考え方は進化した。現在のアプローチは「スキルを伸ばすか、辞めるか」に近い。従業員に期待されるのは、継続的に自分を成長させて新しいスキルを習得することだ。ただし、どのスキルをどれほどの早さで習得するかはおおむね本人に任されている。
また、キャリア開始時と同じ分野に居続ける必要もない。個人のインパクトを高める手段として、時間を費やして新たな職能分野や業界分野の専門知識を習得したり、新たなテクノロジーや分析のスキルを身につけたりするコンサルタントは、称賛される。
インパクトとスキル習得に基づくよう改正されたマッキンゼーのキャリア評価は、以前のアプローチと同じように厳密だが、従業員にとっては格段に柔軟であり、急激に変化する顧客ニーズへのよりダイナミックな対応につながっている。また、従業員はそれぞれに異なる人生の選択に合わせたキャリア構築が可能になるため、より公平でインクルーシブでもある。
このような考え方を、すべての企業が取り入れるべきである。我々の調査では、適切なキャリア開発ができないことは離職の最大の理由であり、キャリア開発の充実は復職への大きな動機でもある。柔軟で成果重視のシステムによって、離職の抑制および定着の両方を後押しできる。
企業文化との適合性ではなく、インクルーシブな能力主義を重視する
多くの企業は、従業員のダイバーシティとインクルージョンを促進すべく、いっそう努力するという誓約を掲げている。経営陣に占める女性と人種的マイノリティの割合が多い企業は、相対的にそれらが少ない企業に比べて収益性が平均を上回る傾向があり、この差は年々開いている。
ダイバーシティの恩恵を十分に得るようと考えるならば、既存の企業文化に適合しうる人材を採用するだけでは足りない。あらゆる人材を受け入れるために、企業文化そのものが十分に支援的で適応性を伴うものとなるよう、徹底する必要がある。そうすることでのみ、企業はダイバーシティがもたらしうる創造性、イノベーション、異なる考え方を享受できるのだ。
それを実現するには、データと結果責任が必要だ。たとえば、ダイバーシティを業績考課と昇進の要素に入れるなどである。
ピープルアナリティクス──パルスサーベイ(簡易的な意識調査)、自然言語処理、ネットワーク分析など──は、シグナルとノイズを区別するために役立つ。経験則に基づくデータによって、たとえば従業員が離職する本当の理由や、辞める決断をしているのはどのような従業員なのかをマネジャーは理解しやすくなる。子を持つ親なのか、女性か、年配者か、あるいは新人なのか。
企業はこれに基づいて文化を改善することで、自分は大事にされているという感覚をより強く従業員にもたらし、定着の可能性を高めることができる。
コロナ禍以前から、企業の90%は将来的にスキル不足に直面することをおそれており、それを埋め合わせる準備ができていると考える企業は16%にすぎなかった。世界経済フォーラムの予測では、テクノロジーは10億人の職に変化をもたらしうるという。このような状況に加え、多くの労働市場の緊迫を踏まえると、グローバル規模での人材探索と大再交渉はますます激化するだろう。新たな時代の到来である。
だが、大再交渉はプロセスであり、結果ではない。
本稿で述べた改革の導入は、些細な取り組みではないだろう。マッキンゼーにとっても、当然ながら簡単ではなかった。しかし、将来の──そしてまさに、現在の──人材市場のニーズに応えるためには、これらはすべて不可欠なのだ。
"Competing in the New Talent Market," HBR.org, October 03, 2022.