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現在の米国経済は、GDPが縮小し株式相場が急落する一方で、失業率は半世紀ぶりの低水準にあるなど、さまざまな指標において強さと弱さが混在している。そのため、経済モデルや予測の有用性には限界がある。経営者は、景気循環を綿密に分析して、次の景気後退とそれがもたらすリスクと機会について、よく考えなければならない。本稿では、米国経済の置かれた現状を踏まえたうえで、経営者が景気後退を乗り切り、競争優位を獲得するために必要なことを論じる。
景気後退リスクと
経済指標の力強さが混在
米国経済は、明らかに景気後退リスクが高まっている一方で、驚くほど力強さを示し続けている。特に労働市場は、2022年9月の雇用統計からもわかるように、雇用創出が堅調で、失業率は再び低下している。
しかし、現時点におけるこの力強さは、災いのもとになりかねない。強さを示唆するあらゆるサインが出るたびに、持続的で広い範囲に及ぶインフレを抑制することはますます難しくなる。すると、連邦準備制度理事会(FRB)は景気後退が避けられない水準まで政策金利を引き上げることになるだろう。
そして、リスクは直線的に増減するものではない。インフレ率はいまなお高いが、長期的な期待インフレ率は依然として低い。40年近くにわたって、我々は構造的に固定されたインフレの時代を生きており、インフレは景気循環の範囲内であまり大きく動くことはなかった。期待インフレ率が安定的に維持されなければ、その代償は景気後退よりもはるかに大きくなり、ボラティリティが高まって、ビジネス環境は悪化するだろう。
現在のマクロ経済が示す一連のシグナルは独特で、さまざまな強さと弱さが混在している。そのため、経済モデルや予測の有用性には限界がある。経営者は、景気循環を綿密に分析して、次の景気後退とそれがもたらすリスクと機会について、よく考えなければならない。
米国経済に見られる強さの兆し
2022年上半期のGDPが縮小し、株価が暴落している中で、米国経済が「強い」と言われるのは意外なことかもしれない。曖昧さの残るマクロ経済データは、たしかに矛盾に満ちているが、経済が好調であることを示す証拠として間違いはない。
まず、労働市場について考えてみたい。景気後退の明らかな兆候は、企業がいっせいに労働力を削減して、失業率が急上昇することだ。現在、失業率は半世紀ぶりの低水準にある。
次に、株式市場はドローダウン(保有資産の下落率)が20%超と弱気相場の範囲内だが、詳細に確認すると、やはり相反する兆候が明確に見られる。株価が下落しているのは、株式の評価額が崩れているからだ。金利の上昇は、将来のキャッシュフローの現在価値を押し下げ、株価の下落につながる。しかし、S&P500企業は好調な収益を維持しており、現時点では成長への期待も続いている。たしかに逆風は吹いているが、強さも見られるのだ。
現在の米国経済では、高収益の企業が記録的な数の労働者を雇用し、高い賃金を支払っている。突然、この状況に歯止めがかかることは考えにくいが、ありえないわけではない。新型コロナウイルス感染症とそのパンデミックによる麻痺状態がもたらした外的な衝撃は、記憶に新しい。しかし、雇用創出の鈍化は避けられない。問題は、経済がどのくらいのスピードで、どのくらい強さを失うのか、その理由は何か、ということである。