経営者に求められる
レジリエンスの構築

 景気後退局面に入ると、経営者は嵐を乗り切るために新たな人材の流入を拒絶し、流動性を確保してバランスシートを強化する目的で、受注や生産、投資、労働力を削減しようとする。

 しかし、これだけでは、競合他社が経済状況に気を取られている間に、競争力を高めるという機会を無駄にする。この50年間、不安定さと危機に襲われた時期には決まって、競争が激化し、市場が変化した。強固な基盤を持つ企業は、特に他社が後退したり動揺したりしている時に、経済危機を見通して、どのような優位性を得られるかを見極めなければならない。

 景気後退に続いて、生産能力の低下や労働力の不足など逼迫した状態に直面する業界は、身を縮めてやりすごすことが戦略的な失敗につながりやすい。景気後退を利用して、生産能力を増強し、選択的に人材を集め、景気後退の裏で増加したシェアを獲得するための足場を固める必要がある。

 言い換えれば、レジリエンスを構築することが引き続き不可欠になる。ここで言うレジリエンスとは、景気後退期を通じて、同業他社や経済全体より優れたパフォーマンスを発揮することだ。こうした動的な優位性の構築は、景気後退の前から始まり(予測と準備)、当面の衝撃を和らげて、景気後退を乗り切り(シェアを獲得する機会ととらえる)、景気後退が終わった後に優位性(生産能力、成長軌道、新しい市場環境との適合性)を活かすことになる。

 新型コロナの浮き沈みを経験した企業は、レジリエンスについて誤った自信を持ちがちだ。しかし、レジリエンスが本当の意味で試されるのは、単なる生き残りや業績の回復を図るためではない。激動の時期に競争優位を獲得するため、繰り返し展開できる体系的なアプローチを構築しなければならない。

 この観点から、企業は新型コロナをめぐる最近の経験を振り返る機会に、ぜひ次のように考えてほしい。競合他社と比べて、自分たちのレジリエンスはどの程度発揮されたか。そして、前回の危機からどのような教訓を得て、危機に対応する戦略と能力を構築できているだろうか。


"The Curse of the Strong U.S. Economy," HBR.org, October 07, 2022.