景気後退のリスクを受け入れる

 実際に、金利をどの程度のペースで、どこまで上昇させ、いつまで高水準で維持すべきなのか。それはFRBも市場も知りようがない。インフレ率がより説得力のある形で低下すれば、金融政策への逆風は弱まるが、反対の状況も起こりうる可能性がある。利上げと景気減速の間のタイムラグに直面しているFRBは、バックミラーしか見えないどころか、暗闇の中を運転しているようなものだ。

 インフレ対策において、FRBは景気後退のリスクを従来よりはるかに受け入れている。これは、経済へのリスクが2021年に比べて甚大だからだ。

 問題は、長期的なインフレ期待が不安定化することである。40年に渡って構造的に安定してきたインフレレジームに、終止符が打たれる可能性もある。これは深刻な景気後退よりはるかに深刻な事態で、安定したインフレに支えられて繁栄してきたビジネス環境の再編成につながるだろう。高い企業評価額、低金利、長い景気循環など、安定したインフレレジームの数々のメリットを、私たちは当たり前のように享受してきた。

 長期的なインフレ期待は現在も安定して維持されているが、FRB はこれを守る姿勢を明確に示してきた。彼らは今後も、インフレが緩やかになり、成長が鈍化して失業率が上昇しても、政策金利の「引き締め」水準を維持するだろう。これは、あまりにも早くブレーキから足を離すと、景気後退に陥るよりも、はるかに大きな打撃をインフレ期待に与えるという考え方に基づいる。

 2023年には景気後退局面に入る可能性が高まっているが、現在の米国経済の強さは差し迫ったリスクではないことを示唆している。その一方で、経済の強さゆえに金利の上昇が避けられなくなり、経済が圧迫されるため、「ソフトランディング」は期待できなくなりつつある。

 現在の景気後退リスクの特徴は、2008年の金融危機のように特定の市場や決済システム等の機能不全が金融システム全体に波及するといった、システミックなリスクが存在しないことだ。長年続いた超低金利が解消されつつあり、金融危機のリスクは高まっている。しかし、金融不況や構造的な打撃の特徴でもある、銀行の機能不全や融資の混乱が起きる可能性は低い。こうしたことから、2008年の危機を前提として考えた場合に想定されるものよりも、穏やかな景気後退になると思われる。