戦略策定の新しいアプローチ
予測不可能性が増すことは、リーダーの戦略に対する考え方や、企業の戦略策定への取り組み方に大きな影響を及ぼす。私は、ベインでの同僚であるマーク・ゴットフレッドソンとともに『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した論文「予測不能な時代の戦略策定法」の中で、激動の時代における戦略策定の新しいアプローチを提唱した。
そのアプローチには、予測不能な環境下で、戦略を選択するための新しい方法論がいくつか含まれている。たとえば、「極端だが信憑性のあるシナリオ」を描くこと、戦略的なリスクヘッジの手段と選択肢を明らかにすること、行動を引き起こすポイントと道しるべを決めることなどである。これらの方法論はすべて、経営幹部が戦略を選択し、大きな投資の決定をする手助けになる。そして、状況が変化した場合にも、素晴らしい柔軟性と適応力を発揮してくれる。
筆者とゴットフレッドソンはその論文で、戦略策定と業績モニタリングのためのまったく新しいプロセスも提唱した。不確実な時代における戦略策定は、流動的なプランを生み出す継続的な行為でなくてはならない。
そして、自社にとって最も優先度の高い問題に対処することも重要だ。目指すのは、固定的なプランを生み出すのではなく、「変わり続けるプラン」をつくり出すことである。そのプランは、新しい情報が入ってくるたびに、推敲されて、修正されるものであるべきだ。
業績モニタリングのあり方も、変わらなくてはならない。その日の天気を報告するのと同じように、「前四半期におけるスペインでの売上げがいくらだったか」といった情報をリーダーに伝えるだけでなく、どのような行動を取るべきかを指し示せるようなモニタリングを行う必要がある。そして、経営幹部たちが顧客やライバル企業や規制当局などからのシグナルを受け取ったうえで、軌道修正を行うべきかどうか、どのような変更を行うべきかを判断する材料を提供するものでなくてはならない。
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世界は、ますます予測不可能になっていく。リーダーが戦略を、(ホッケーの)パックが向かう先に滑っていくようなもの(アイスホッケー選手であるウェイン・グレツキーの名言)だと考えるのは、もはや不可能であり、適切でもない。戦略を形づくるに当たっては、まず方向性を示し、最初のいくつかのステップを決めたうえで、柔軟性も組み込まなくてはならない。柔軟性を欠いていれば、新しい情報が入ってきても適応できないからだ。
つまり、戦略策定では、進むべき正しい道を選ぶだけでなく、軌道修正の必要性を判断するために、モニタリングすべきポイントを決めなくてはならない。戦略は、常に変わり続けるものであるべきだ。企業がビジネスを行おうとする世界そのものも、常に変わり続けているのだから。
"In a Volatile World, Your Strategy Must Be Flexible," HBR.org, October 05, 2022.