Tarik Kizilkaya/Getty Images

英国のトラス首相は、就任から1カ月半で辞任を表明し、異例の短命政権に終わった。その引き金となった「ミニ予算」には、経済成長の低迷を立て直すための大型減税策が盛り込まれていた。これにより金融市場は混乱し、国債や通貨の急落を招いたのだ。成長率の低さは、英国に限らず、欧州諸国が抱える問題だ。経済を再び活性化しようとするならば、政府と民間のリーダーが手を組み、生産性を高める技術と気候変動対策に本気で取り組まなくてはならないと、筆者は主張する。本稿では、企業が英国経済政策の混乱から何を学び、持続的成長に向けていかに行動すべきかを論じる。

トラス首相の「ミニ予算」

 2022年9月19日、エリザベス女王の葬儀が執り行われ、世界中の目が英国に注がれた。実に厳粛かつ格式ある葬儀だった。それが月曜日のこと。そして金曜日、就任まもないリズ・トラス首相とクワシ・クワーテング財務相は、いわゆる「ミニ予算」案を発表した。

 その結果は、女王の葬儀とは正反対だった。たちまち、ポンドは対ドルで史上最安値に転落し、英国債(ギルト債)の価格も大幅に下がり、英国の年金基金は2008年の世界金融危機の時のような打撃を受けた。国際通貨基金(IMF)は、この予算案を非難し、経済格差を拡大することになると警告した。

 英国の悲惨な1週間は、一見したところ、局地的な出来事のように見えるかもしれないが、実のところ、欧州全体を蝕む、より広範な問題を示唆している。

 トラスの予算案はたしかにひどいものだったが、経済成長の低迷に焦点を当てたのは適切だった。ただ、英国をはじめ欧州諸国が経済を再び活性化したいならば、応急処置以上の対策が必要だ。政府も民間も、生産性を高める技術と気候変動対策に本気で投資する必要がある。