欧州全体が抱える問題
この残念な出来事は、『Mr.ビーン』や『空飛ぶモンティ・パイソン』のようなエキセントリックな英国人の気質として片づけたくなるかもしれない。少なくとも、2016年のブレグジット選択という大失敗(すでに英国の物価を約3%上昇させている)に続く、とんでもない経済的自傷行為であるのは間違いない。
しかし、英国が経験している苦境は、より広範な欧州の政治的・経済的問題の一部である。
第1に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻が、エネルギー価格の急上昇を引き起こした。欧州は世界のどこよりも、ロシア産のガスと石油に依存している。
たとえば、ウクライナ侵攻前、ドイツで消費されるガスの55%はロシアから輸入されていた。米国の場合、シェールガスが豊富にあり、ロシアからの輸入が比較的少ないのが、幸運だったといえるかもしれない。もちろん、米国もまったくの無縁ではないが、ロシアのガス供給停止と経済制裁による直接の経済的インパクトは、はるかに小さい。
第2に、欧州は米国に比べて、コロナ禍からの回復が遅れている。2008年の世界金融危機の時とまさに同じ状況だ。また近年では、欧州のすべての国で生産性の伸びが鈍化している。この点について、英国の状況は特に深刻で、労働時間当たりGDPの伸びを比較すると、2008年のリーマンショック以降の14年間に比べ、リーマンショック前の30年間は5倍以上の伸びとなっている。
生産性の伸びが鈍いということは、賃金の伸びが鈍いということであり、クワーテングの予算が決死の賭けに出た背景である。解決策として間違ってはいたが、成長率の低さが問題であるという彼の診断は正しかった。英国は、欧州の多くの国と同様に、生産性向上と経済成長を大いに必要としているのだ。
第3に、このような経済問題は、手っ取り早く儲けられる解決策を示すポピュリスト政党の伸長をもたらしてきた。スウェーデン民主党やイタリアの同胞(FDI)といったファシストの流れを組む政党が、それぞれの国で権力を獲得してきたのだ。
では、彼らの解決策はどのようなものなのかといえば、問題をすべて外国人やエリートのせいにして、移民を犯罪者のように厳しく取り締まることを約束するのだ。
英国をはじめとする欧州諸国が必要としているのは、生産性を持続的に成長させる構造的政策に注力することである。そのためには、製品市場、労働市場、そして金融市場におけるサプライサイド改革、そしてスキルとインフラ、イノベーションへの投資が必要だ。
EUによる8070億ユーロ規模の新型コロナウイルス復興基金は、これらを中核に据えたものだ。同基金は加盟国に対して、本格的な改革計画を策定することを促している。その中には、行政サービスのデジタル化やクリーンエネルギーへの投資、科学研究への投資などが含まれる。いずれも、生産性向上につながることが科学的根拠によって示されている。マリオ・ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁が首相を務めていた時のイタリア政府も、このような計画を掲げていた。
問題は政治だ。多くの有権者と政治家は、このような改革の必要性を認めたがらないように見える。