英国の悲惨な1週間
予想されていた通り、クワーテングが示した「ミニ予算」は、家庭向けおよび企業向けのエネルギー料金に上限を設け、給与税と法人税を引き上げる計画を中止した。これは高くついた。だが、誰もが衝撃を受けたのは、とりわけ富裕層を優遇する所得税の追加減税だった。すべてを合わせると、これらの措置は英国政府の借入れを大幅に増やし、公的債務を持続不可能なレベルに押し上げた。
英国では通常、このレベルの財政イベントには、政治的に独立した予算責任局(OBR)が詳細な分析を行い、どのようなインパクトが生じるかを予測し、政府の借入れに対して信頼に足る返済計画があるかどうかを検証する。OBRは米国議会予算局(CBO)と同様の、財政監視機関だ。
クワーテングが財務相に就任した時、OBRはいくつかの予備調査を行ったが、クワーテングはこれまでのところ、その公表を拒否している。おそらくは、かなり悪い評価を受けたからだろう。
独立機関による分析結果が示されないため、金融市場は独自の評価を下した。それも厳しい評価だ。英国債は急落し、通貨のポンドは対ドルで一時1.03ドルまで下がった(その後、ほぼ持ち直した)。国債価格が下落すれば、利回りは上昇し、住宅ローン金利が上昇する。さらに、計1兆ドル相当の英国債を保有する多くの年金基金も、財政的に不安定になった。
9月28日水曜日、イングランド銀行(英中央銀行)は金融メルトダウンを回避するため、それまでの「量的引き締め」政策を覆し、国債の大量(650億ポンド)買い入れを開始せざるをえなくなった。
翌週の10月3日月曜日までに、トラスは後退を余儀なくされ、所得税の最高税率の廃止を撤回した。
政府は何を考えていたのか。この取り組みの背景にある考えは、ドナルド・トランプ前米大統領が、2017年に法人と高額所得者への減税を実施した時と似ていた。つまり、税負担が減れば、経済成長率は大きく高まり、結果的に税収が増えて、借入れを返済できる。その結果、公的債務は増えるのではなく、減るという考え方だ。この理論は、米フォード政権の助言役を果たした経済学者アーサー・ラッファーにちなみ「ラッファー曲線」と呼ばれ、その後の共和党政権に影響を与えた。
だが、一部の非主流派シンクタンクを除けば、英国が経験している現実に対して、この理論の重要性を本気で唱えているエコノミストはいない。事実、ドイツや北欧諸国のように税率の高い国の多くが、経済面で力強い成功を収めている。高所得者に対する大幅減税と、経済成長との間に明確なつながりはない(ただし、格差を拡大するのは間違いないだろう)。
市場は、この標準的な見方に従い、トラス政権を罰した。