企業にとって何を意味するか
欧州は依然として世界最大の単一市場であり、世界のイノベーションと民主主義のハブでもある。米国よりも人々の教育水準は高く、格差は小さく、合理的な料金で医療を受けられる。
そのため、欧州はいまも、多くの主要企業にとって重要な市場であり、本拠地を置く場所でもある。気候変動対策、大手企業やインターネットの規制に関しては、米国を含む世界の国々が追随するような基準を示してきた。
しかし、低成長(生産性の伸びの鈍化と急速な高齢化が一因だ)のために、多国籍企業は欧州をあまり魅力的な進出先とは見なさなくなっている。欧州諸国が内向きのポピュリズムに向かえば、EU全域で事業運営コストが圧縮できなくなるだろう。それどころか、コストが上昇する可能性さえある。
いまもEU最大の武器は単一市場であることだが、まだ完成したわけではない。サービス市場における規制の障壁をさらに撤廃することが、利益拡大につながるだろう。だが、仮にポピュリスト政党が、ヒト・モノ・サービスの移動に再び障壁を築き始めれば、ブレグジットがはっきりと示してきたように、欧州の中でビジネスを行うことはより難しくなるだろう。
コロナ禍と米中貿易戦争は、世界のサプライチェーンに大きな混乱を生じさせた。ウクライナ紛争は、この不確実性に拍車をかけている。企業はレジリエンスを高めるために、効率の一部を犠牲にしてでも、サプライチェーンをさらにシフトさせている。
欧州は、このようなサプライチェーンに深く統合されているため、そこから外れればコストが生じる。脱グローバル化を進めても、豊かな国にある本社に事業活動が戻ってくるのではなく、さらなる地域化(たとえば、アジア、北米、欧州の各地域にハブとなる拠点を持つ)につながるだろう。
企業にとって最大の任務は、欧米諸国が巨大な課題に対峙するのを支援することだ。気候変動と低成長に対処するには、企業と政治のリーダーが手を組み、繁栄に必要な長期的投資を行う必要がある。
市場自体が、私たちの抱える問題を解決してくれるわけではない。私たちはグリーンイノベーションを中心とした、世界規模の新しいマーシャルプランを必要としている。それは夢物語ではない。官民パートナーシップによって、新型コロナウイルス感染症のワクチンは異例ともいえる短い期間で開発された。また、プーチンの国土強奪は、欧米諸国を連帯させることにつながった。
良質な成長を遂げるための政策は、サプライサイド改革という長く、苦しいマラソンのようなものであることを、私たちは認識しなければならない。足元が揺らぎ、辞任を余儀なくされたトラス政権が約束したような、単純な減税や派手な行政措置を駆使した成長への短距離走ではないことに気づかなければならない。
"The UK Economic Crisis Might Not Be a One-Off," HBR.org, October 03, 2022.