先延ばし
リ・インベンションに着手するのを避けようとする最も安易な口実は、それ以外にやらなくてはならない差し迫った仕事である。成功したリーダーには、いっそう大きな責任が与えられるので、自分自身の長期的な計画に集中する時間はますます減っていく。
その余裕のなさが、不安を煽ることもある。目の前の現実的な要求に押しつぶされそうな時に、まだ漠然としている未来を想像するのは難しい。
それ以上に、個人のリ・インベンションには恐れがつきまとう。大きな決断を前にして、躊躇することのない人などいるだろうか。洞察を深めたいからではなく、単に決断に伴う不安や自信のなさから逃げるために、選択を先延ばしにしたくなる。
心理学の見地からすれば、先延ばしをするのは、不明瞭で困難かつ形の定まらない状況や決断を回避するためだという。個人のリ・インベンションは、これらすべての項目に当てはまる。
バーバラの場合、自身のマーケティングのキャリアに幻滅していたが、要求の厳しい仕事と幼い子どもの世話に追われて、自分自身の願望について考える十分な時間がなかった。友人の紹介で筆者らのワークショップに参加した彼女は、本当の問題は時間がないことではなく、どこから手をつけたらよいのかがわからないことだと気づいた。
ワークショップでは、バーバラには前述のエムと同様、考えられる将来の道を具体的かつ詳細に描き、それを視覚化することを勧めた。そのうえで、描き出された選択肢を分析的に評価し、それぞれの魅力や適合性、適格性を比較・対比してもらった。
その作業を通じて、バーバラは今後のキャリアの可能性を吟味し、自分の目標と能力に最も適していると感じた道を選ぶことができた。彼女は視覚化したアイデアのいくつかを試す時間をひねり出し、やがて、グラフィックレコーダー(議論をグラフィックで可視化する仕事)という新たな道を見つけることができた。
あなたに先延ばしの傾向があるならば、なぜ自分の人生の重要な決断を先延ばしにしているのか、なぜそれ以外の課題を優先しているのかを自問しよう。
「ジャスト・ドゥ・イット」(とにかく、やってみよう)というスローガンは、最初の一歩を踏み出す勇気を与え、リ・インベンションは反復的なプロセスであることを思い起こさせてくれる。たとえ、どれだけ小さくても、最初の一歩を踏み出すことは、完璧なアイデアを試さないままでいるよりも、素晴らしいことなのだ。
* * *
本稿で挙げた落とし穴に共通しているのは、それ自体が習慣として悪いわけではなく、むしろ、その逆である点だ。エグゼクティブは、これまでの人生でうまく機能してきた戦略に従っているにすぎない。他人に頼らず、考え抜いて答えを出し、目の前の仕事に邁進して、忠誠心を示してきたのだ。しかしまた、その習慣こそが、新しい可能性の探求という厄介かつ感情的な作業を妨げている。
自分の内なる切望と現状との不一致に気づいた時、自分は何者であり、人生に何を求めているかという実存的な問いに、初めて取り組めるようになる。それを妨げる落とし穴、つまりこれまで貫いてきた信念と相対する時、ようやく将来の自分を想像し、新たな道へと踏み出すことができるのだ。
"What's Stopping You from Reinventing Your Career?" HBR.org, October 27, 2022.