考えすぎ
鋭敏な分析能力は、複雑な状況で適切な問題解決を図り、リーダーシップを発揮するうえで欠かせない。しかし、自分自身のリ・インベンションとなると、「もう少し、考える時間が必要だ」と言って、立ち止まったまま、変化へのステップを踏み出せないエグゼクティブもいる。
考えすぎという落とし穴にはまるのは、問題を解決するために分析や論理に頼り、感情や直感、視覚、身体化といった認識方法を軽んじる時である。頭で考えすぎると、このようなデータソースからのサインを見逃し、実験から学ぶことができなくなる。しかし、個人のリ・インベンションとは、実験を通じて身体化されたものであり、ただ頭で考えるだけでは未来に進めない。
筆者らのワークショップに参加したエグゼクティブの一人、エムを例に取ろう。彼女は慈善団体で15年のキャリアを持つベテランで、組織の戦略の方向性を決める責任者だった。しかし、仕事量が多すぎて疲労が溜まり、子どもと一緒に過ごす時間も限られていた。かつては愛していた仕事から心が離れているのに気づいた時、彼女は自分でも驚いた。
だが、自分が何か別のことをしている状態を想像しようとするたびに、「これまでずっと打ち込んできた仕事なのだから」「やりたい人がいくらでもいる職務なのだから」と理由をつけ、先に進めなくなっていた。理屈で考えていたせいで、どことなく感じる不安や未来を想像する時に覚える感覚に、注意を払うことができなくなっていたのだ。
筆者らはエムに対して、考えられる次のステップのプロトタイプを絵に描くことを勧めた。すると彼女は、いくつかの分かれ道がある旅の行程と直感に基づく内なる羅針盤を持つ自分自身の姿を描いた。次に、将来のそれぞれの道について、次のように自問してもらった。どのようにエネルギーが湧いてくるか。どの程度、自分のスキルセットに適しているか。キャリアの進展のスピードと方向性に、どのような影響があるか。
エムは、かつて愛した職場を去る時が来たことに気づいた。彼女は直感という内なる羅針盤に従って、エグゼクティブの職を辞した。そして、人生の次のステップ向けて大学院で心理学の学位を取得することを目指し、家族と過ごす時間を増やした。過去の職務について考えすぎるのをやめた時、わくわくするようなエネルギーに満ちた将来を想像する余裕が生まれたと、彼女は振り返る。
もしあなたが「ちょっと考えさせてください」と頻繁に口にしているなら、考えすぎの傾向がある。考えすぎず、感情や直感のような見落とされがちなデータソースに注意を向け、実験的なアプローチを取ってみよう。
個人のリ・インベンションに最も役立つのは、考えることよりも行動することだ。実際に試して、結果から学ぶことが大切なのである。身体的な手がかり、つまり実験がうまくいったかどうかという直感とその他の反応はデータソースとなって、考えすぎという落とし穴から抜け出すのに役立つ。