正解探し

 学校から職場に至るまで、この社会には「正しい」答えと「間違った」答えがあると教え込まれる。しかし、人生やキャリアのリ・インベンションという未知の領域を見渡す時には、明白な正解はないことが多い。現時点での自分の職務については、即座に自信を持って答えるエグゼクティブでも、個人としての未来について尋ねられると、急に黙り込んでしまうことがある。

 科学者のサムは、目の前の問題の正解を見つけるための教育を受けてきた。ドイツの大手企業で20年以上、化学者として勤務してきた彼は、自分がそろそろ方向性を変える時だと感じ始めていた。だが、どの方向に転換すべきかについては、明確な正解を探りあぐねていた。結局、何かを変える必要があるという感覚を抱えたまま、現在の職に留まっていたのだ。

 筆者らがサムに接してみると、科学者として実験というものをよく理解していることは明白だった。そこで、彼に対して、リ・インベンションという作業の進展には、実験が必要であることを強調した。そして、実験に臨むのと同じレベルの好奇心を持って、自分の人生を検証するように求めた。人生と仕事の充足感がどこから来るのかを突き止めるためにも、実験をすることを勧めたのだ。

 やがてサムは、人生には「公式」も正解も存在しないが、多くの刺激的な選択肢があり、その選択をするのは自分自身であることに気づいた。そこで、2年間は現在の職に留まりながら、選択肢を探る実験を行う猶予を設けることに決めた。彼は、職業上の実験として地域のスタートアップを支援し、個人面の実験としては合唱団に入って音楽への愛を温め直すことにした。

 あなたにも、選択肢を評価するにあたって「正解」を探す傾向があるならば、それは実験に着手したり、学習と成長の道程として失敗を受け入れたりすることを避けている兆候だ。選択肢として、それ以外にどのような道があるのかを自問することが、助けになる。