バリュードライバーは時間とともに変化する

 先ほどの図表の分析は、一つのビジネスサイクルの平均値に基づいており、分析対象となる企業の一般的な事実を指し示している。

 ただし、これらの「事実」が時間とともにどのくらい変化するかを理解している経営者は、ほとんどいない。2つ目の図表は、2011~2020年の包装食品、包装食肉業界のバリュードライバーの変化を示している。

 この時期に包装食品企業は利益を重視する傾向が強まり、その後、外部要因(おそらく新型コロナウイルス感染症)に直面して、その傾向が少し弱まっている。同じ時期の包装食肉企業を見てみると、利益は重要なバリュードライバーから、投資家がほとんど気にしないレベルへと変化している。しかし、企業の配当と債務返済能力に関しては、おそらく例外と考えてよい。

 この分析は驚くべきことを示唆している。たとえば、あなたがこのような分析を知らずに、2013年初めにある包装食肉企業のCEOに就任したとしよう。まず、利益率が大きく伸びたことが市場で評価されていると知り、利益率を重視する。その後、利益率の伸びの重要性が低下し、収益の成長の重要性が高まるにつれて、利益率が下がる。

 そこで、あなたはアナリストや金融ジャーナリストの話に耳を傾け、株価収益率の予測を検証する。2017年の終わりに向けて、あなたは収益を重視するようになる。四半期をいくつか経て、状況は好転し始める。しかし、株主への現金還元の重要性が大部分を占めるようになり、収益の重要性は低下して、総利益率は再び悪化する。

 2、3年前から、場合によってはそれよりはるかに前から、企業価値評価を押し上げるバリュードライバーに基づいて経営が行われる状況を、筆者は繰り返し目撃している。このようなビジネス戦略は、スポーツチームが1年前の作戦で優勝を目指すようなものだ。しかも、それは1年前のチームのために立てた作戦だ。優れたデータと分析がなければ、機敏に動くことは不可能である。