評価を高める要因がわかれば
チャンスと脅威を見逃さない

 もちろん、マーケットが何を求めているかわかっていれば、現状のビジネスを維持したままで株主価値を高めることができる。しかし、何が企業価値を生み出すのかをデータに基づいて理解できていれば、陰ながら経営陣を支えることができるだろう。

 企業が別の業界から新しいCEOを迎えると、新しいCEOは新しい業界について学ばなければならないと考えるが、株価を変動させる要因に関しては、これまでに得た知見を活かすことができるだろう。企業の採用委員会としては、過去の経験だけでなく、データ主導の学習をもとに新しい業界で戦略を設計できるCEOであるかどうか、事前に確認しておきたい。

 業界外からもたらされると考えていた変動性が、実際は業界内にあることも少なくない。包装商品業界内で別の企業へと転身したCEOは、以前の企業と同じように経営しようとするかもしれないが、それが正しいとは言い切れない。たとえば、最初の企業では収益が重要視されていたとしよう。しかし、マーケットが2つ目の企業に関しては利益率をはるかに注視しており、それにCEO自身は気がつかない可能性もある。

 M&A(企業の合併・買収)も同じように考えられる。たとえば、あなたの企業では利益率より収益がはるかに重要視されているが、自社には高利益率で低成長の事業部門があり、企業価値にあまり貢献していないとしよう。そこで、利益率が重視されている業界内の別の企業に、自社での評価額よりもはるかに高い金額で事業を売却することができるとしたら、どうだろうか。相手先の企業は、低利益率ながらも急成長する事業を持っており、彼らにとってあまり価値が高くなければ、あなたはその事業を大幅な割引額で購入するか、相互に有利な交換条件で獲得することができるだろう。

 買収合戦から手を引くタイミングを知ることによって、競争を回避することもできる。筆者はある企業に、売り手企業から求められているプレミアムは買い手企業にとって価値がないものだと助言した。また競合企業は売り手企業の企業価値を高く評価していない点を指摘し、彼らが手を引きやすくした。つまり、企業買収の勝者は、高すぎる金額を払うことになる。競合他社が過ちを犯している時はじゃまをしない。それが経験から得た間違いのない方法だ。

 経営者は、このような分析によって得られるインサイトだけを参考に、判断できるとは限らない。方向転換には計画が必要であり、時間がかかる。しかし、2つ目の図表が示す通り、バリュードライバーの重要性は徐々に弱まる傾向があるため、企業は環境が完全に変化する前に計画を立てて実行する時間的な猶予がある。また、環境が変化するにつれて、バリュードライバーの新しい特徴が見えてくる。

 すなわち、マーケットへの影響力を最大限にするために「いつもと同じビジネス」を行う、有利な条件での買収や売却を可能にするような評価の差額を利用する、競合他社の評価方法に内在する脅威に備えて自分たちのビジネスを強化する、といったさまざまな場面において、以下のようなことがいえる。企業はデータ革命によって、自社と競合他社に影響を与える重要なドライバーの移り変わりを理解でき、それに応じて行動できるようになるのだ。

【注】
本稿の見解は筆者のもので、アーンスト・アンド・ヤング(EY)や他のEYグループ企業の見解を必ずしも反映しているものではない。


"6 Factors That Determine Your Company's Valuation" HBR.org, October 25, 2022.