職場で建設的な政治への関与を促す
市民の強力な政治参加は極めて重要だが、それだけではぐらつく米国の民主主義を安定化させることはできないだろう。2020年の大統領選は、近年で最高の投票率となったが、同時に政治的分断もかつてないほど大きいものになった。
民主党寄りの有権者も共和党寄りの有権者も、分極化した政策を選択することを表明しただけでなく、対立する政党を支持する有権者に対して、あからさまに不信感や嫌悪感を示した。最近では、自分とは異なる意見を持つ人たちと建設的な話し合いをするよりも、支持基盤を過激化する戦略を選ぶ政治家が増えており、有権者の二極化に拍車をかけている。
幸いなことに、有権者は候補者やその選挙陣営以外からも多くの情報を入手する。これには、個人間でのディスカッションが含まれる。筆者の共著者でもあるHECモントリオール校の助教授カロリーヌ・ルペネックとともに、1952年以降に世界10カ国で行われた62の選挙のデータを分析したところ、有権者の最大3分の1は、投票日までの2カ月間に投票する候補を決めることがわかった。この割合は国によって異なるが、どの国でも数十年間、同レベルで推移している。
ここに、企業が重要な役割を果たせる余地がある。友だちやソーシャルメディアの知り合い、家族、さらには隣人のほとんどは、支持政党が同じであることが多い。これに対して職場は、互いにリスペクトしたり憧れたりしているが、異なる政治的見解を持つ人たちと交流したり、コラボレーションを図ったりする数少ない場所の一つだ。特に選挙の直前には、職場でも政治的な内容の会話が交わされる。
したがってビジネスリーダーは、従業員が多様な政治的見解があることを認識するよう促すとともに、どのような見解も差別される心配なく、穏やかに表明できるように、明確な方針を定めるべきだ。
それにはまず、エグゼクティブが謙虚さと、対立する政治見解に寛容な姿勢を示すべきだ。そして、反対意見をステレオタイプ化せず、同じ考えを持つ人たちの会話が反対意見を持つ人を侮辱する内容へと移りかけた時は割って入るなどして、模範を示すべきである。ハーバード大学の研究者らが行った心理学や社会学の研究によると、エグゼクティブがメールやミーティングで使う口調は、部下たちに伝播する可能性が高いという。
また、ビジネスリーダーは、従業員に寛容な心構えを育むことを促し、異なる意見を知るメリットを強調し、そのための訓練を提供すべきだ。職場で政治問題について意見を表明すること、ましてや具体的な行動を起こすことに、二の足を踏むエグゼクティブもいるかもしれない。幸い、そのためのリソースは増えており、ビジネスリーダーはそれを活用できる。たとえば、ブレーバー・エンジェルズや、2017年にキャライン・メールとジョナサン・ハイトが設立したコンストラクティブ・ダイアログ研究所といった専門組織のサービスがある。
これらの組織は、研究に基づくeラーニングプログラムを提案し、困難なテーマに関して建設的な対話を促す。異なる政治的見解を持つ参加者とのワークショップを実施する組織もある。
こうしたワークショップは、まず自分がなぜ特定の意見を持つようになったのかという心理的なルーツに目を向けさせ、自分の意見に影響を与えている認知バイアスを発見するのを助ける。さらに、誤解を発見し、中立的な質問をし、相手の意見を取り入れようとすることで、ほかの参加者の視点を理解するよう訓練する。最後に、参加者にお互いの共通点を見つけるよう促す。これには、疑う余地があると認めること、そして自分の意見を表明したり合意できる範囲を示したりする時、断定的ではない表現を使うことが含まれる。
コンストラクティブ・ダイアログ研究所のような組織は比較的新しいが、支持政党が異なる人が1対1で対話をすると、政策や感情の対立を小さくできることを数多くの研究から立証している。寛容の文化を育むには、自分の行動や言葉遣いに日々注意を払う必要があり、リーダーは自分やメンバーを訓練するために特定の機会を活用すべきである。たとえば、新入社員研修や社外でのチームビルディング研修、リーダーシップ育成プログラムに、建設的な政治的対話に加わる方法についてのワークショップを加えることを検討してもよいだろう。
企業は、政治と異なる領域にあるものなのは確かだ。しかしそれは、企業という場が、自分とは反対の意見にあらためて耳を傾けることを学び、支持政党を超えた建設的な会話を行い、二極化の解消につながる空間になることも意味する。さらに企業は、従業員や顧客との特別な関係を利用して、何百万人もの人々に投票を促すことができる。このように、企業は政治を脅かす存在だというイメージを払拭して、民主主義の再活性化に貢献することができる。企業よりも、民主主義に大きな効果をもたらす利害関係などあるだろうか。
"4 Ways Businesses Can Help Uphold Democracy," HBR.org, November 04, 2022.