3. 新たな役割への転換を完了する

 入社した後も、アイデンティティに関する正直でオープンな対話をマネジャーと継続するとよい。優れたマネジャーであれば、困難を予期して入社後の適応を助けるために情報を提供してくれるだろう。上司と協力して、転換が最も難しい部分を特定するのが理想的だ。

 たとえば軍隊出身者は、誰でも自由に発言できるブレインストーミングのような、非階層的なタスクを苦手とする場合が多い。明確な指揮命令系統の不在は、彼らに染み付いた「よき軍人」としてのアイデンティティを脅かすのだ。

 しかし、アイデンティティの衝突を意識しておけば、不慣れな物事を無意識のうちに避けるのではなく、意図的に探究するという選択ができる。戦略的に、的を絞って自分の残存アイデンティティをみずから侵害することで、新たなスキルの獲得につながりうる。それによって職務の転換がなされ、職業プロフィールがいっそう豊かになる。

 残存するアイデンティティは、傲慢な印象を与えずにフィードバックを提供するための重要な文脈としても活用できる。新しい社員は人間関係を築く必要上、率直な意見の表明を遠慮することが多い。外部者としての視点にこそ、閉鎖的なチームが耳を傾けるべきであるにもかかわらずだ。

 自分の提案を、残存するアイデンティティから生じたものとして提示することで、「ぶしつけな不満」と受け取られかねない意見が「謙虚な視点の交換」へと変わる。また、職務の転換を成功させるための個人的努力も伝わる。

 世界情勢のさらなる不安定化に伴い、今後数年はキャリアを飛躍させる機会が豊富に現れる。私たちの心理的健康とキャリアの充実は、本当の自己を裏切ることなく、転換を吟味して実行する能力にますます左右されるだろう。

 新たな職務に適合しない残存アイデンティティの要素を捨てるのが、いかに難しいか。あるいは、守り続けるために努力する価値がある要素はどれか。これらを予測するうえで役立つのが、VMEのフレームワークである。


"When Changing Jobs Changes Your Identity," HBR.org, November 02, 2022.