転職の成功には「過去の自分」を新たな環境に適応させることが必要である
Megan Pinsonneault/Stocksy
サマリー:変化の激しい時代には、転職によってキャリアを飛躍させる機会が豊富にある。だが、その転職を成功させるためには、求職者がみずからに対する理解を深める必要があるだろう。本稿では、過去の経験で築いた「残存する... もっと見るアイデンティティ」をいかに把握し、新たな環境で活用すべきかを論じる。それには価値、意義、行動という3つの側面でとらえるVMEフレームワークが役立つはずだ。 閉じる

転職を成功させるため、求職者に必要な3ステップ

 労働市場の大きな変化に伴い、労働者はこれまでよりもはるかに頻繁に職場や職能を変え、異業種にも移っている。

 しかし、キャリアが大きく飛躍する際、自分自身まで完全に変わるわけではない。私たちは往々にして、過去の仕事の体験を引きずる。職業人としての自己は、新たな役割に就くたびにきれいに拭き取れるホワイトボードではない。むしろ、元の文字を消して上書き・再利用され、古い文字は復元が可能な「パリンプセスト」に近い。

 筆者が発表した研究の中で、この亡霊のような過去の痕跡を「残存するアイデンティティ」(lingering identities)という造語で表現している。

 筆者の研究によれば、残存するアイデンティティへの対処を誤ると、キャリアに深刻な影響が及ぶ可能性がある。

 調査では、新規採用者の約半数は自分の役割をうまく遂行できず、その主な理由として「フィット」していないことが挙げられている。「フィット」とは一般的に、従業員の中核的な価値観と能力が、職務上求められる価値観や能力と適合していることと解釈される。

 しかし価値観も能力も、私たちに生まれ付き備わっているものではない。それらの大部分は、人生と仕事の経験を通じてもたらされる。つまり、自己のアイデンティティが決定的な役割を果たす。

 筆者の分析では、「フィット」の問題は根本的な不適合が原因ではなく、一つのアイデンティティから別のアイデンティティへの心理的転換を完了できていないことで生じるのだ。

 アイデンティティの転換は複雑な動きを伴う。筆者の研究が示すように、体、行動、人間関係、心理という最大4つの異なる次元での同時的な転換を必要とする。

 現代の世界で変動がますます激化する中、心理的な過程は軽視されている。自分が何者なのかに関する認識を、職務に合わせて変えるべきであるにもかかわらず変えない場合、心理的転換がなされず、アイデンティティは消えずに残り続ける。

 したがって、求職者にとって必要なことは以下の3つである。

1. 自分の中に残存するアイデンティティを十分に理解し、就職機会を選別する手段として活用する。

2. 自分のアイデンティティと適度に合う役割を見つける。

3. 新たな役割への転換を完了する。

 たしかに難しい課題ではある。だが3つのステップをすべて達成すれば、中途採用者として成功する可能性が格段に高まるのだ。以下にその方法を示す。