2. 自分のアイデンティティと適度に合う役割を見つける
価値、意義、行動(VME)のフレームワークを自分の残存アイデンティティに適用したら、そこから得た学びをもとに、就職先候補との適合性を判断することができる。
就職面接は双方向、と聞いたことがある人もいるだろう。面接官が候補者を審査するのと同じ程度に、候補者も面接官を審査するのだ。面接での「では、そちらから何か質問はありますか」という部分こそ、新たな就職機会がどれほど大きなアイデンティティの変化が必要となるのかを判断する絶好の機会となる。
たとえば、自分の「価値」の側面が雇用主の名声に大きく依拠する場合、当然ながら次の就職先は、現在と同等かそれ以上に名高い組織にしたいはずだ。ただし名声は、誇示できなければあまり意味がない。したがってこれに該当する人は、応募した職務ではあなた自身が業界の展示会やカンファレンスで会社を代表する機会があるか、あるいは出張する機会があるかどうかを面接で探るとよい。
役割に伴う「意義」を明確にするには、理想的な候補者を表現する形容詞を3つか4つ、面接官に挙げてもらうとよい。それらを自分自身のアイデンティティの診断と比較すれば、潜在的な不一致が見えてくるはずだ。
面接先の職務が、自分の職業人としての過去と──ひいてはVMEの3つの側面で残存するアイデンティティと──相容れない場合、フィット(およびそれに伴う仕事の成果と満足)を実現するのは非常に難しくなる。違和感がより少ない別の職が見つかるまで、就職活動を続けるのが得策かもしれない。
ただし、明確にしておきたい点がある。自営業でもない限り(そしておそらく過去においても)、自分の固有の残存アイデンティティに完全に合う職など存在しない。少なくとも、少しは合わない部分があるはずだ。
そして、それは必ずしも悪いことではない。新たな役割に適応することは、職業人として持続的に成長するための道筋である。そうでなければ、残存するアイデンティティによってキャリアがマンネリ化するかもしれない。
重要なのは、完璧ではなく「満足化」を求めることだ。これはハーバート A. サイモンによる用語で、人がいかに「より現実的な世界において、満足できる程度の解」を選ぶかを意味する。キャリアを前進させるには、「ほどほどによい」と感じられるフィットを選ぶ必要があるだろう。
もう一つ考慮すべき点として、アイデンティティの適合性の観点から就職活動をとらえることで、選択肢が広がりうるという大きなメリットがある。自分のキャリアを新たなステージへと導きうる、創造的かつ管理可能な飛躍の機会を見出せるかもしれない。
たとえば企業広報の専門家は、「意義」の側面で適度に合っていれば、営業職で魅力的なチャンスが見つかるかもしれない。最も優れた営業担当者の一部は本質的に、説得力に富む戦略的なコミュニケーションを行う人である。
採用担当者の助けを借りることで、こうした意外な足掛かりを見つけることが格段に容易となる。そのためには当然、就職活動中に自分の残存アイデンティティを隠さずに見せる必要がある。気が引けるかもしれないが、採用前に自分について率直に明かすことは、(自身と就職先双方にとっての)ネガティブな体験と、今後生じうるキャリアのつまずきを回避する一助となる。
したがって、充実感を持って能力を最大限に発揮するためには、新たな役割での適応を要する残存アイデンティティの要素について、正直に話すことを検討すべきだ。