流通の3つのC

 もう一人の筆者であるテイシェイラは、数年前までハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の教授としてマーケティングを担当していた。MBAのコースではマーケティング入門として、かの有名な「マーケティングの4つのP」を教えていた。その一つが「流通」(place)だ。

 この時点で学生はまず、流通の鉄則について学ぶ。自動車から衣料品、缶詰に至るまで、あらゆる商品の流通に関して、マネジャーは以下の3つCに関する重要な決断を下す。

(1)流通過程を完全にコントロールするか、物流会社と契約するなどして一部を手放すか。

(2)地域や地方など、どの地理的レベルをカバレッジ(対象範囲)とするか。

(3)商品の配送コストはどこまで許容できるか。

 サプライチェーンマネジャーの理想は、すべてのオペレーションを完全にコントロールして、コストを最小限に抑え、可能な限り広範囲を対象にしたいというものだろう。しかし残念ながら、それは不可能だ。

 HBSの学生はさまざまな業界や市場のケーススタディを数多く学び、これら3つのCのバランスを理解する。すなわち、完全なコントロールと低コストを望むならば、対象範囲は譲歩する。コントロールと広い対象範囲を望むならば、コストは譲歩する。低コストで広い範囲をカバーしたいならば、コントロールについては譲歩する(たとえば、別の会社と契約して代行してもらう)。

 優秀なサプライチェーンマネジャーは、3つのCのうち2つを選んで最大化する。3つすべてを手に入れることはできない。とはいえ、この鉄則が当てはまるのは製造会社と小売業者に限られており、フェデックスやUPSのような物流会社は別だ。

 理論上では、小売業者が可能な限り流通コストを低く抑え、米国で最も高い地理的レベルをカバーするためには、どの企業もある程度、コントロールを手放す必要がある。アメリカンイーグルが流通を完全にコントロールしようとするならば、コストの上昇については我慢することになると考えられた。

 しかし、アメリカンイーグルは別のトレードオフを選択した。ある程度のコントロールを確保したうえで、他の小売業者と流通ネットワークを共有することで、コストの削減と対象範囲の拡大を目指すのだ。流通の共有を通じて、アメリカンイーグルは自社の戦略に適した3つのCのバランスを見出した。