共有の限界
サプライチェーンを独自に所有して運営する場合と比べて、ある程度のコントロールを手放すだけでなく、サプライチェーンの資産を共有したり、EC物流で協力したりするには、いくつかの課題がある。
まず、パートナーとの間に一定の信頼が必要だ。そのような信頼は、時間をかけて運用の透明性を高めるところから生まれる。さらに、共有するものが自社の所有するものより優れていれば、話はより簡単になる。たとえば、エアビーアンドビーのように住居のシェアリングが機能するのは、自分の家と比べて、少なくともある程度はよい家で休暇を過ごしたいと思うからだ。
サプライチェーンの資産も同じである。マネジャーは、自社のインフラより優れていて、レジリエンスが高く、技術的にスマートで、低コストで利用できるインフラだと判断した場合に限り、共有しようと考えるものだ。
したがって、クワイエットでは、すべての資産の相互運用性とコラボレーション全体を調整するソフトウェアに多額の投資を行っている。
「競合他社との協力」と聞いて、反トラストに関する警鐘が頭の中で鳴り響く場合もあるかもしれない。しかし、あらためて言うが、(a)価格操作に関連しない場合や、(b)消費者の利益に害を及ぼさない場合(たとえば、選択肢の消失や価格の上昇がない場合)は、競合企業と協力しても問題はない。
サプライチェーンの資産の共有は、むしろ、消費者価格を引き下げ、出荷時間を短くすることを目指す。クワイエット・プラットフォームズの分析では、まだ暫定ではあるが、関係者全員にとって大きな価値創造につながっていることが明らかになりつつある。
グローバルサプライチェーンは、無限の種類の商品を低価格で消費者に提供してきた。しかし、近年はサプライチェーンがみずからの重みに耐えられなくなり、生き残るには単なる改善以上の変革が必要だ。課題の中には、1社もしくは数社のEC大手による支配という脅威がある。なかでも、アマゾンは大きな脅威だ。
アメリカンイーグルとクワイエットの経験は、サプライチェーンの資産を共有することによって小さな企業がEC業界の巨人と戦うチャンスを得るという、新たな未来を示唆している。彼らが生き残ることは、消費者の選択肢を守り、健全な価格競争を行うのに役立つだろう。
公正を期して言えば、この新しいパラダイムには考え方の大きな変化が必要だ。サプライチェーンを個別に所有するモデルを放棄し、より協調的なシェアリングエコノミーの考え方をしなければならない。しかし、先進的な小売業者は、同じ問題を共有しているならば、同じ解決策を共有することが必要だと気づいている。
"How American Eagle Reinvented Its Fulfillment Strategy" HBR.org, November 07, 2022.