流通の主導権を握る

 EC物流を支えるためには、全国規模の大手運送業者に依存するのではなく、輸送とフルフィルメント(商品の仕入れ、在庫管理と、顧客からの受注、発送から代金回収までの一連)を自分たちで主導的に管理する必要がある、という判断が変化の出発点だった。

  世界的なファッション小売業者として、これは容易なことではなかった。米国内だけでも、アメリカンイーグルの購買者はティーンエイジャーが居住するほぼすべての場所に存在するため、地理的に100%近くをカバーしなければならない。

  そこでナタラジャンは、米国内のサプライチェーンのコントロールを強化する計画を立てた。まず、物流スタートアップのエアテラを買収し、ミドルマイルのロジスティクスに関して全国的な輸送ネットワークを構築する。そして、ラストワンマイルのフルフィルメントを担うクワイエット・ロジスティクス(現クワイエット・プラットフォームズ)を買収するという計画だった。

 これらは10億ドルのコミッテッド・キャピタル(出資約束金)の半分近くに関わるディールでもあり、簡単な決断ではなかった。しかし、アメリカンイーグルの経営陣は、サプライチェーンを管理してみずからの運命をコントロールする必要に迫られていた。

 エアテラの規模自体は小さく、統合に関して大きな課題はなかった。荷物の輸送は、基本的に3つの段階に分かれている。すなわち、発送元から中間倉庫までのファーストマイル、国内の広範囲にまたがるミドルマイル、そしてフルフィルメントセンターから購入者の玄関先までのラストワンマイルの3つだ。エアテラは、アメリカンイーグルのミドルマイル輸送を比較的スムーズにこなしていた。

 一方、クワイエットの統合は、それほど簡単ではなかった。同社はフルフィルメントセンターの棚から商品をピックアップして、梱包し、購入者の自宅に配送するラストワンマイルを担う。アメリカンイーグル以外にも60社の顧客を抱えており、米国内に7カ所あるフルフィルメントセンターで、ロボット支援によるピッキング、梱包、配送サービスを提供していた。

 問題は、アメリカンイーグル以外の顧客をどうするかだ。クワイエットがアメリカンイーグルの傘下に入ったいま、他の顧客にもサービスを提供し続けるのか。顧客の中にはアメリカンイーグルのファッション部門の競合相手もいるが、彼らを切るべきか。

 ただし、前者の場合、アメリカンイーグルはクワイエットの輸送能力の50%しか利用できない。結果として、商品1個あたりの実質的な配送コストが大幅に増えて、墓穴を掘るようなものだ。逆に、後者を選択した場合には、他の企業や競合相手にサービスを提供することで、少なくとも戦略の焦点を失い、最悪の場合は利益相反を招きかねない。

 しかし、2つのことを理解したうえで、クワイエットは他の顧客にもサービスを提供し続けるという結論に至った。

 その理由の一つは、アメリカンイーグルの競合他社が配送コストの削減という優位性を得ることは、必ずしもアメリカンイーグルのコスト増にならない、ということだ。むしろ反対に、双方が規模の経済からコスト削減を実現できる。これは、サプライチェーンにおいて極めて重要なことだ。つまり、クワイエットが顧客全体のスケールメリットを享受したいならば、アメリカンイーグルの競合他社にサービスを提供し続けるべきである。

 もう一つは、より高度かつ戦略的な判断で、クワイエットがサービスを提供する競合他社のいずれかが、アメリカンイーグルを廃業に追い込むような差し迫ったリスクはない、ということだ。より大きな、より実存的な脅威はアマゾン・ドットコムであり、このままではアマゾンの配送コストの優位性が拡大し続け、消費者が「エブリシング・ストア」でこれまで以上に買い物をする可能性があった。

 これら2つを理解して、ジレンマは解消された。クワイエットは他の企業にサービスを提供し続けるだけでなく、新たな顧客を積極的に開拓する。そうすれば、新しい顧客が出荷数という形で規模を拡大するにつれて、すべての既存顧客が等しく、平均的な出荷コストとフルフィルメントコストが下がるという恩恵を得られるだろう。