5. 自社セクターのダイナミクスを考慮して、判断を下す
価値の高い長期的関係に基づくセクター(例:金融サービス)や、活発な消費行動に基づくセクター(例:消費財、クイックサービスレストラン)のCMOは、マーケティング費用を維持、あるいは増加させる可能性が高い。彼らは過去の危機で得た教訓から、顧客の再獲得コストがあまりに高いことを知っているのだ。
一方、製薬業界といった他のセクターでは、マクロ経済の状況よりも、自社製品のイノベーションのライフサイクルを事業推進のきっかけとして重視する傾向があるため、景気後退期の対応は、中立的かもしれない。
最も迅速に判断を下す必要があるのはおそらく、エンターテインメントや家電など消費者の裁量で選ばれるカテゴリーのCMOだろう。彼らは、消費行動の変化によって売上げが下がれば、支出の削減を迫られるとわかっている。
マーケティング予算の削減圧力にさらされているカテゴリーにとって最良の戦略は、供給に制約が生じている場所での広告を減らすことだろう。優れたマーケターはますますサプライチェーンやテクノロジー分野の同僚との連携を強め、データを活用することで、在庫が実際にどこにあるかという情報に基づき、はるかに高い精度で需要を刺激できるようなってきている。
6. データを活用したDXを推進し続ける
DXは短期的な取り組みではない。成長戦略に関する全責任を担ってきたCMOの大半は、特に新型コロナの時代に顧客の声を受けて出世の階段を上ったこともあり、すでにDXに着手している。そのようなリーダーは、すでにCFOへの説明を済ませ、CIO(最高情報責任者)と効果的に連携し、ビジネスとテクノロジーの優先順位をすり合わせている。
CMOはマーケティングスキルの育成で知られているが、データとテクノロジーの規律ある使用を推進し、E2E(エンドツーエンド)のカスタマージャーニーを事業部門を横断して結びつける必要もある。この変革は極めて複雑かつ長期的なもので、大半の企業ではセールスからサービスまで、ブランドプロミスを確実に実現するためにすでに行われている。
この役割の重大さを考慮すれば、より広範な変革を主導するCMOは、この路線を取り続けるのが得策だろう。そのような変革によって、現在の経済的不確実性の時代を乗り越えることができる可能性が非常に高いためだ。
CMOは、適切なデータ戦略の推進や適切なテクノロジーアーキテクチャーの構築、人材アジェンダの調整、デジタルアダプション(ユーザーがソフトウエアをはじめから適切に使用できるよう整備し、得られたデータをもとに意思決定する)の推進を継続していく必要がある。そうすることで、短期的にも長期的にも有意義な経済価値をもたらすことが可能になる。
経済の未来像と、それがマーケティングに与える影響を予測するのが困難なことに、疑いの余地はない。少なくとも現時点では、ある程度安定した雇用市場が他の不安定要素を和らげているように見えるが、CMOはかつてないほど広範な任務を背負ってパンデミックを乗り越えてきた。
今日の不確実性は、マーケターが顧客の精神に最も近いリーダーであるだけでなく(それは危機の際に欠かせない要素である)、変化し続ける状況に対応できる戦略的・定量的な精度も備えた存在であることも示すことができる、格好の機会となるだろう。
"Holding Onto Your Marketing Budget in a Downturn," HBR.org, November 11, 2022.