ある自動車メーカーは、パンデミックによる混乱と半導体不足への対応として、リスクの監視・対応能力の強化に大規模な投資を行った。この会社はまず、スコアリングシステムを使って、リスクに優先順位をつける新たなツールを開発した。
最終的な製品には、原材料から完成品になるまでに何千点もの材料や部品が使用されている。同社は、そのすべてに絶対的で確実なレジリエンスを持たせる投資が不可能だと気づいた。その代わりに、顧客のニーズを満たす製品を提供するため、最も重要となる数百の部品のサブセットを対象としたリスク評価を開発し、明文化したのだ。このシステムでは、環境リスク、地政学リスク、生産能力のリードタイム、サプライヤーの地理的集中などタイプ別のリスクに基づき、重要な部品や製品ごとにスコアをつける。
その一環として、同社は特に重要な供給インプットに対するリスクを適切に予測して迅速に対応できるよう、何千もの指標の評価にも取り組んだ。この評価指標には、商品価格の変動(需給バランスの不安定さをより正確に追跡できる)や、サプライヤーの生産設備稼働率(リードタイムとサプライヤーの健全性をより正確に把握できる)などが含まれる。また、デジタルツールやその他の情報収集メカニズムに投資して、混乱のシグナルに目を光らせることで、できる限り先手を打つことが可能になった。
新たな戦略のカギとなった原則は、徹底した優先順位付けだ。同社は現在、重要な部品に緊急のリスクが発生した場合には迅速に対応する。その一方で、緊急性の低い長期的なリスクについては先行指標をモニタリングし、供給の冗長性が重要な分野ではその点への投資を検討している。またリスクの低いカテゴリーについては、優先順位を引き下げ、将来的にあらためて検討する計画だ。
こうしたリスク評価アプローチの見直しによって、これまで発見が困難だった重大な脆弱性が浮き彫りになっている。その一例が、自動車用リチウムイオン電池の正極と負極を接着する樹脂の製造に必要な添加剤だ。
同社は、この添加剤の少数のサプライヤーが一部の地域に集中しており、最大限の生産能力で稼働していることに気づいた。つまり、これらのサプライヤーが操業を中断すれば、重要な材料を入手できなくなるおそれがある。同社は現在、対応策の検討を進めている。
最後に同社は、サプライチェーンの新たなレジリエンス戦略をサポートし、それを全社的に強化するための包括的な運用モデルを設計した。これには、自社のレジリエンス関連の取り組みを統括する新たなチームの発足や、供給の潜在的脅威に対処し、混乱に対応するプロセスおよびガバナンス構造を定めることが含まれている。
また、新たなプロセスおよびこのチームの責任範囲には、シナリオの計画やサプライチェーンのストレステスト、サプライチェーンの全機能にわたるリスクの優先順位に関する議論を促進することなどが含まれる。そうした投資は、レジリエンスを重視する企業文化の醸成に役立っている。同社は現在、供給関連の危機が起きてから対応するのではなく、警告のサインが現れた段階で、積極的にリスクの軽減を図れるよう、明確な計画を備えている。
サプライチェーンの混乱は、毎回事情が異なるため、レジリエンスへの投資の効果を予測するのは困難だ。しかし、いざ次の大規模な供給ショックが起きれば、同社は容易に数億ドルを節約できることだろう。