5. 稀少性をメリットに変える
供給の不確実性に直面すると、通常より30日分多く在庫を確保しておくといったように、多めに発注してバッファーを確保したくなるものだ。
問題は、ここ数年の供給のアップダウンを目の当たりしたすべての経営陣が痛感している通り、状況が一夜にして一変しかねないことである。サプライチェーンの川下における需要変動が川上に行くほど増幅する現象を指す「ブルウィップ効果」の先手を打つのは、一段と難しくなってきている。過去2年間に過剰な在庫を発注し、それを保管するスペースに追加コストを投じたのに、いまでは商品の価値が失われ、特売価格で売ったり、倉庫に寝かせておくしかない、という企業もある。
一方、在庫問題をビジネスチャンスに変える創造的な方法を編み出した企業もある。
ある自動車メーカーでは、パンデミックによる製造の中断と部品不足のせいで、製品の供給が通常の在庫バッファーの半分以下に縮小した。すると、一部の顧客が在庫切れの前に希望のモデルを入手しようと購入時期を早め、その結果、供給が減少し、インフレと相まって価格を押し上げた。
意外なことに、品薄状態になっても顧客が離れることはなかった。その企業の特定のモデルを買いたいという意思が固まっている場合、多くの人は「待ってでも手に入れたい」と考え、多くの場合、値上がりしてもその気持ちは変わらないのだ。
この事実を知った同社は、市場進出モデルを見直し、プレミアムモデルや特別装備、限定色の車を用意した。まだ始まって日は浅いが、そうした製品群については、最も売れ行きのよさそうな地域のディーラーに特定モデルを何台納品すべきかを正確に予測することが、以前ほど重視されていない。代わりにこの会社では、戦略的に配置された倉庫に在庫を用意し、注文が入ったら迅速にディーラーに届けるという方法を試みている。
こうすることで、ディーラーは在庫不足を顧客にとってプレミアムな体験に変えることができる。希望の車種が店頭になくても、ディーラーが全在庫を検索して発注し、迅速に納品できるのである。
パンデミックをはじめとするこの数年のサプライチェーンの混乱から得られた包括的な教訓の一つに、いくつかの重要な領域で顧客の期待値がリセットされた点が挙げられる。この状況が永遠に続くわけではないだろうが、企業にとっては、そのメリットを活用し、顧客の期待に応え、現状を超える革新的な方法を見つけ出す格好のチャンスだ。
"5 Lessons from Automakers on Navigating Supply Chain Disruptions," HBR.org, November 16, 2022.