「生産性のパラノイア」にならずに
仕事の優先順位について支援する

 マイクロソフトは最新のワーク・トレンド・インデックスで、11カ国2万人の従業員を調査し、マイクロソフト365の生産性に関する数兆のデータを分析した。最も重要な発見の一つは、従業員がこれまで以上に仕事をしているのに対し、マネジャーは従業員が実際に生産的であるとなかなか信じないことである。

 リーダーは、かつて対面型の職場にあった視覚的手がかりに頼れなくなった。リーダーの85%は、ハイブリッド型の仕事に移行したことで従業員の生産性を信用するのが難しくなったと答えている。仕事に関わる指数は増加しているのに、生産性が失われることを恐れているという矛盾状態「生産性パラノイア」に陥っているのだ。

 しかし、そうした信用の喪失を裏づけるデータはない。従業員の87%は、自分は非常に生産的であると報告している。その証拠として、ミーティングの大幅な増加(153%)、マルチタスキングの量、全体的な労働時間の増大が挙げられる。

 従業員が自分の生産性を証明しなくてはならないというプレッシャーを感じると、往々にして「生産性の劇場」が出現する。見た目の生産性のために貴重な時間を浪費するという、とりわけ有害なエネルギー消耗のパターンが生じるのである。

 従業員が十分に仕事をしているかどうかを心配するより、従業員が最も重要なことに集中できるよう支援することに時間を使うべきだ。従業員の81%は、仕事の優先順位づけにもっと支援があれば助かると答えているが、マネジャーから有益な指導を受けたと答えた人は31%にすぎない。

 従業員がかつてなく熱心に働いているという現実を、リーダーはまず認めなくてはならない。従業員がしっかり仕事をしていないのではないかと心配して、過剰に詰め込んだ「やることリスト」の順序を並び替えるだけではなく、付加価値のない活動を取り除き、一人ひとりの仕事を組織が最も重要とする優先事項に結びつけるべきである。

 自分の価値をリーダーに認めさせるという無意味な活動ではなく、目的と意味のある仕事に従業員がより専念するようになれば、ポジティブなエネルギーが生まれるだろう。

成長の兆候を見逃さず、
兆候が薄れてきたら介入する

 結局のところ、すべての組織が「エネルギーに満ちあふれ、成功している従業員集団」とはどのようものかを、みずから定義することが必要である。そして、期待通りの方向に進んでいることを示すシグナルを見極めることだ。

 チームの通常のやり取りの中でも、重要な手がかりは見つかる。たとえば、チームミーティングでメンバーはどのようなタイプの質問をしているか。好奇心に満ち、学ぶ姿勢のある質問か。そうではなく、皮肉や不満が混じっているか。困難な問題を、どのように語っているか。エンパワーメントや主体性の感覚を伴っているか、それとも憤りや徒労感を伴っているか。

 従業員エンゲージメントのデータや定期的なパルス調査のデータ、その他のヒアリングシステム(たとえば、マイクロソフトでは「有意義な仕事をするためのエネルギーとエンパワーメントを得られる」という定義で、従業員スライビングを測定している)はいずれも、従業員体験を大規模に測定するために極めて有用だ。

 しかし、それらのデータにアクセスできない個々のマネジャーにとっては、目の前のバロメーターを有効活用することが、チームのエネルギーの貯えをチェックするのに大いに役立つ。

 たとえば、カルッチがエグゼクティブコーチングを担当するクライアントは、業績が優秀なとあるメンバーが納期に間に合わなかったり、ミーティングに遅刻したりするようになったことに気づいた。目くじらを立てるほどではないにしても、気になっていた。この問題を当人に提起したのかとカルッチが尋ねると、クライアントは次のように答えた。

「いえ、粗探しをしていると思われたくなくて、とりあえず大目に見ていました。彼女は最も優秀なスタッフの一人で、多忙を極めているのはわかっていましたし、プライドを傷つけたくなかったのです」

 多くのリーダーは、従業員の行動パターンが変わった時に介入するのを避けようとするが、その直感に従ってはいけない。配慮を示すことは、懸念を示すこととは違う。何らかの前兆に気づいた時に、ただちに介入すべきだ。相手が個人的なストレスを抱えているのならば、あなたにいつ、何を伝えるかは当人が決めればよい。

 もし仕事の要求に押しつぶされそうになっているならば、信用していないからではなく、信頼しているからこそ手助けしたいと伝えよう。本人が追い詰められる前に、必要に応じて休みを取るように促すことだ。特に抜群の成績を収めてきた人には、仕事から少し離れても地位や機会を失うことはないと安心させることが大切である。

* * *

 データからは、今日の不安定で絶え間なく変化する職場環境が、従業員のエネルギーを奪っていることが明らかになっている。リーダーとして、チームにエネルギーを補充し続ける役割を引き受け、エネルギーの貯えを充分に保てるチーム環境をつくり出すことを第一に心がけてほしい。


"6 Ways to Reenergize a Depleted Team" HBR.org, November 18, 2022.