企業、マネジャー、従業員にできること

 まず、もしもあなたに出勤前に家庭でパートナーから無礼な態度を取られた経験があるのなら、他者への支援の提供──特に個人的な悩みの解決をサポートすること──が、自身の問題への対処にも役立ち、そうすることで帰宅する頃には気分が好転している、ということを覚えておこう。また、そうした行動は、長期的にあなたを支えてくれるような人間関係の構築にも有益だ。

 ただし、そうした効果を狙う場合には注意が必要だ。筆者らの研究では、個人的な問題ではなく業務上の課題を解決するために同僚を助けた場合には、帰宅時の気分がさらに「悪化」していた。これは、業務関連の支援の場合には、人間関係を構築する機会につながらず、自身の業務上の目標に集中しにくくなるせいかもしれない。

 2点目として、無礼な対応を別の視点からとらえ直そうとすることが大切だ。先ほど紹介した2つ目の研究で、ネガティブなやり取りを相手の視点に立ってとらえ直す傾向のある従業員は、仕事への悪影響を回避できていたことがわかった。

 この結果は理にかなっている。無礼な態度には曖昧さが含まれる場合もあり、明らかな軽蔑の意図があるとは限らない。そうした視点の切り替えによって、パートナーの無礼さをより肯定的にとらえられるようになる。

 組織やマネジャーには、家庭で困難な状況を抱えている従業員をサポートするという役割もある。職場で嫌な思いをしても、家庭が気持ちを立て直す場となりうるのと同様に、マネジャーは従業員が勤務中に家庭のストレス要因を忘れられるようなポジティブな環境づくりに取り組むべきだ。

 筆者らの研究は、無礼な対応の中でも些細なものを経験した人だけに焦点を当てたが、家庭でより深刻な虐待にさらされている人を救うための文化的支援は、彼らにとっても有益だと確信している。たとえば、社員同士が助け合い、ポジティブな社会的関係を築けるような支え合いの風土を醸成するといったことだ。

 誤解のないように言っておくと、無礼な態度は基本的に、された側のウェルビーイングに悪影響を及ぼすものであり、ここに挙げたような対処法があるからと言って、パートナーへの無礼が許されるわけではない。紹介したアプローチによって、その日の誰かの気分が改善できたとしても、人間関係を修復できるわけではないのだ。

 また、パートナーの無礼に悩まされている人の気持ちを軽くするために、組織が「人助け」用のタスクを用意すべきだと言っているわけでもない。筆者らの研究成果はむしろ、部下の人生は仕事だけで成り立っているわけではなく、仕事以外の要素が仕事に影響する可能性があること、そして、その人をまるごとサポートすることが重要であることを、マネジャーやリーダーに念押しするためのものだ。同時に、この研究結果は、人が対人関係上の問題にいかに自然に対処しているかが垣間見える希望の扉でもある。

 リモートワークやハイブリッドワークの時代を迎えたいま、仕事と家庭の境界線はこれまで以上に曖昧になり、一方の領域での感情が他方の領域にまで持ち込まれる状況は今後も深刻化するばかりだろう。しかし、従業員がそうした感情に対処するコツについてわかったことを活用し、組織やマネジャーが彼らをサポートできるようになれば、悪影響を最小限に抑えることは可能だ。


"Research: How a Fight at Home Impacts Your Workday," HBR.org, November 28, 2022.