今日の世界でリーダーであることの意味

 筆者が思うに、今日におけるコーチングの課題の一つは、私たち一人ひとりが単一の自己として行動するのではなく、3つの主たる自己の複雑な関わり合いを通じて行動していることにある。すなわち「子どもとしての自己」「保護者としての自己」、そして「中核的自己」である。この考え方は、家族療法士のリチャード・シュワルツ(筆者との血縁関係はない)が体系化した「内的家族モデル」(IFS)に強く影響を受けている。

「子どもとしての自己」は、私たちの生まれ持った自己を指す。これが最も弱い自己である。「保護者としての自己」は、人生の早い段階で登場し、子どもとしての自己を、恐怖や傷心、恥辱、弱さ、無力感といった感情から守る役割を果たす。

 ルーカスの場合、自分という人間の価値が脅かされていると感じた時、そのストレスに対して、保護者としての自己がどのように反応しているかを知ることにより、力が湧いてくるように感じた。そして、脅威を感じた時に、保護者としての自己に対応を委ねるのではなく、より有能で慎重な中核的自己に基づいて行動することで、以前に比べて自分が穏やかになり、自己調整することができ、内省的で慎重な判断が下せるようになった。

 筆者がコーチングをしてきた企業リーダーのほとんどは、情報や知見を得るに当たって、主として一つの情報源に頼っていた。それは、頭脳だ。しかし、実際には、情報の中枢は少なくとも4つある。頭脳以外に、心、肉体、魂も情報をもたらすのだ。十分な情報に基づいて意思決定を行うには、この4つの情報源すべてを参照しなくてはならない。

 ルーカスは、矛盾する思考の渦から距離を置き、肉体が伝えてくる情報に耳を澄ますようになると、考え方が変わり始めたことに気づいた。つまり、頭脳だけに頼るのではなく、より深い直感にこれまで以上に注意を払うようになったのである。頭脳ばかりを偏重すると、自分が選択したことのほぼすべてを正当化しようとしてしまう。