リーダーにとってさらに厄介な問題は、自分は強く自信があるように、さらに言えば、弱さとは無縁に見えるように行動することが必須であり、そのような振る舞いがリーダーとしてのアイデンティティの核を成すと、長く考えられてきたことだ。

 そのような「ペルソナ」(人間の外的側面)を身にまとうことにより、不快感や痛みから自分自身を守ろうとすることがあまりにも多い。しかし、現代型組織の運営を担うリーダーには、オープンであること、謙虚であること、そして成長したいという欲求を持っていることが不可欠であり、その点をよく理解しなくてはならない。

「あなたの考え方にはまったく同意できず、議論が白熱したこともありました」とルーカスは最近、筆者に語った。「そのようなケースの90%は、私が思い切って変わろうとする勇気を持てない時でした。転機が訪れたのは、私が自分の核を成す部分と向き合い、相手の話を聞く耳を持ち、最終的には人として成長することを受け入れた時でした」

 ルーカスの場合、その転換点は「対立を避けたい」「コンセンサスに到達したい」という欲求に過度に影響されるのではなく、自分が最も大切にしているものは何かを掘り下げて考えることによって訪れた。

 さらに、チームメンバーの仕事に口を出し、マイクロマネジメントをしたがる傾向があることも認める必要があった。不安を感じると優柔不断になり、何人ものメンバーに同じ作業をやり直させることもあったくらいだ。自分がこのような矛盾する衝動を持っていることを認識し、その事実を受け入れられるようになればなるほど、ルーカスは両者のバランスを上手に取れるようになった。 

 目標を明確に設定して、その目標に関してチームに責任を持たせるというルーカスの能力が高まるにつれて、彼はメンバーに権限を委譲することに前向きになっていった。自分が直接関わらずとも、他のメンバーが目標達成に向けて行動することを、よしとするようになったのだ。

 彼の仕事には、会社の「最高エネルギー責任者」とでも呼ぶべき役割を担うことも含まれていた。それはつまり、ルーカスが自分の感じていることを認識し、周囲に伝えれば、よくも悪くも、部下に与えるインパクトが極めて大きいことを意味する。

 ルーカスは周囲に対して、自分の弱さを認め、何事も包み隠さずに語る姿勢を見せるように努めた。自分にとって、強い感情を抱く引き金になっているものは何かを理解し、何か引き金になるようなものがあっても、すぐに行動しようとはせず、じっくり向き合うことを学ぼうとしていると打ち明けるようにした。その結果、チームメンバーも以前より安心して、自身が悪戦苦闘していることを認められるようになったのだ。