資産の共有

 高度に自動化された生産設備のキャパシティをフル活用できるほど生産量が多くない生産者は、工場を他社と共有することで、規模によるコストダウンを享受できる。

 施設を無関係の企業と共有することで、コンプライアンスや独占禁止法、知的財産などに関するリスクが生まれるのも確かだ。競合する複数の顧客と取引するサプライヤーで一般的に見られるような、防御の仕組みが必要となる。たとえば、重要な製品は現場に来るほかの顧客の視界に入らないようにする、機密データは厳重に隔離する、などが求められる。

財務の変革

 サービス化モデルは、外部の投資家が出資して生産資産を所有することで、設備の活用と所有を切り離す。外部投資家はたいてい、資産に伴うすべてのリスクを引き受けることはなく、特に稼働不足のリスクを嫌う。だが多くの場合、このようなリスクの一部は他者に分担させることができる。

 たとえば、保険会社は技術的可用性を保証する(設備が故障した場合の追加コストを補償する)などのリスク移転商品を通じて、リスクを引き受けることが可能だ。そして使用者側も、設備を一定量は必ず使うという保証を提供できる。

 PaaS工場はまだ十分に発展していない。だが完成形に近い生産施設の例はいくつかある。特に注目すべきは、ドイツのスマートプレスショップだ。

スマートプレスショップ

 スポーツカー製造メーカーのポルシェは、シャシー部品の生産において技術革新の恩恵を十分に得るため、最新のプレス工場を利用する必要があった。だがプレス工場は、投資コストをなるべく大量の部品に分散させるべく高い稼働率を求める。少量生産メーカーであるポルシェは、新型のプレス工場を自社のみでフル稼働させるほどの生産量を持たない。

 同社は異例のアプローチを取ることを決めた。プレス機械メーカーのシューラーと折半出資し、銀行コンソーシアムから追加資金を借り入れ、合弁事業として「スマートプレスショップ有限合資会社」を設立した。

 スマートプレスショップ(SPS)は柔軟性の高いプレス工場で、少量ロットの効率的な生産に特化している。完全自動によるツールの切り換えや、レーザーを用いたブランキングラインなどを含む多くのスマート機能によって、柔軟な生産ができる。柔軟な生産システムと合弁事業という体制が組み合わさることで、SPSは余剰キャパシティをほかの自動車メーカー(フォルクスワーゲングループ以外も含む)にも提供できる。

 柔軟な生産と共有によって、SPSは他社に負けない低コストでポルシェの品質要件を満たすことができる。2021年6月からドイツのハレ(ザーレ)でフル稼働し、市場への独立サプライヤーとして操業している。現在はポルシェのマカンとパナメーラ、およびベントレーのボディパーツを生産し、まもなくほかの自動車メーカーへのティア1サプライヤーになる見込みだ。

「当社はスマートプレスショップで生産のサービス化を実現し、いまではさらに大きな規模でもPaaSが実現可能であることを証明しました」と、SPSのマネージングディレクターを務めるクリスチャン・ヘーディケは語る。

成果

 PaaSはすべての参加者に複数のメリットをもたらす。

使用者

 資産を使用するすべての事業者が、生産と固定資本への先行投資を減らすことができる(設備投資費を事業運営費に転換できる)。浮いた資本は、イノベーションに使えるようになる。加えて、小規模生産者は共有を通じて規模の経済による利益を享受し、工場はさらに大規模な資産の運営が可能になる。

提供者

 資産を提供する側は、継続的なサービスの提供によって複数のメリットを得る。継続的かつ予見可能なキャッシュフローや、顧客との関係強化につながる接点の増加などだ。また、PaaS環境においては顧客は、機械の機能性ではなく生産高でサービス提供者を評価するため、顧客満足度の向上につながりやすい。

投資家

 PaaSは外部投資家向けに新たな資産を創出し、生産設備を有形担保として提供する。外部投資家は通常では投資できない資産への投資機会にアクセスし、市場の不確実性の高まりを考慮して投資ポートフォリオの分散化を図ることができる。加えて、リスクを分担する仕組みを通じて、リスク・リターン特性を投資家の期待に合わせて調整することができる。

 市場分析によれば、PaaSモデルを通じて工場と機械に外部から投資される総額は年間720億~980億ドルに上る可能性があり、ここには米国での220億~260億ドル、中国での同額、ドイツでの50~70億ドルが含まれる。

 一般的にPaaSは、共有を通じて規模の問題に対処し、設備稼働率を効率的に高めることで、リショアリングを経済的に実現可能にする。これによりサプライチェーンが短縮され、二酸化炭素の排出量も減る。結果的にPaaSは、製造業の持続可能性の向上に貢献するのだ。


"How Smaller Companies Can Bring Manufacturing Closer to Home," HBR.org, December 07, 2022.