同一産業でビジネスモデルが異なる企業の競争関係
入山:松本先生が現在取り組まれている研究内容も教えていただけますか。
松本:大阪大学の渡辺周先生と共同で、SMJの論文と同様に半導体メーカーの詳細なデータを使った研究を行っています。業界内で1つの企業が市場に参入したり、撤退したりした時に、競合企業がどのように反応するのかを分析しています。
市場への参入・撤退を議論する先行研究の多くは、米国の航空業界を扱っています。航空会社があるルートに新たに参入すると、競合がどう反応するかを見るようなものです。
半導体業界が航空業界と違って面白いのは、競合している企業のビジネスモデルが異なる点です。半導体メーカーはファブレス(生産設備を持たない企業)、ファウンドリ(生産に特化した企業)、IDM(設計や生産すべてを行う垂直統合型)という大きく3つのビジネスモデルに分けられます。競合関係だが、違うビジネスモデルの企業が入ってきた時に、他の会社がどのように反応するかという点は、まだ研究で明らかになっていません。ですので、そこを明らかにしようとしています。
入山:なるほど。ビジネスモデルが異なると、相互の寛容性(Mutual Forbearance)が低くなって、敵対的行動を取りやすい……という結論になるのでしょうか。
松本:まず、敵対的行動に対する反応を見ると、IDM型の企業は、競合企業が参入してきた時に強い敵対的行動に出ます。なぜなら、IDMは半導体の生産に関わる資源を自社で持たなければならないので、ある製品分野に参入するのも撤退するのも難しいからです。つまり、いまのポジションを守らなければなりません。一方、ファブレスは、市場に競合企業が入ってきても敵対的行動をとる確率が低いです。
それに対して、みずから敵対的行動をしかけるかどうかという点では、ファブレスは新しい製品分野への参入に積極的です。なぜなら、ファブレスは参入も撤退も容易、つまりポジショニングに対するコミットメントが低いからです。一方、IDMは行動をしかける側としては敵対的行動を強くとりません。
入山:めちゃくちゃ面白いですね。
松本:航空業界とは違って、半導体業界では、市場の参入・撤退に非対称性みたいなものがあるよねという仮説を持っています。
入山:想定通りの結果は出ていますか。
松本:IDMかファブレスかという違いだけでは予想された結果が出ていなくて、企業のサイズとか、もう一つ何か要素を組み合わせる必要がありそうだな……という段階です。
結局のところ、IDMと一くくりにしてしまっていますが、アセットを重く持っている企業とそうでない企業があるんです。分析する際には、これをうまくコントロールする必要があると思っています。現状だとまだ分析結果が弱くて学術誌に載らないので、改善の余地が相当あるなと思っています。
入山:なるほど。ここまで伺っていると、松本先生の研究のやり方は、実は僭越ながら私と似ていますね。私もデータから入って、面白いことはできないか考えて、理論は面白そうなのを持ってくるというスタイルなのですが、松本先生もそうなのですね。
松本:そうですね。この研究も半導体のデータセットを活かそうというところがスタートです。